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実千代鍼灸院 Michiyo Acupuncture Clinic

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症例

2016年2月1日(月)

梅核気(喉の閉塞感) []

【主訴】梅核気(喉の閉塞感)43歳女性
【初診】平成27年6月下旬

【現病歴】
約1年前の2月、喉のつまりと口渇が出現(この頃、毎年ご主人の転勤の辞令が決定する頃で過度に緊張している)。過去にも2回、同様の症状が出現する。痰(透明)がいつも喉にからみ、常時ゲップがでて口に苦みを感じる。嚥下には影響なし。
数か月後の春、食後に胸やけが伴うようになり、食欲減退。体重は4キロ減少する。ジョギング中にも吐き気がでるようになりジョギングを止める。

【増悪因子】
何もせず、ボーっとしている時。(過去2回の喉のつまり感は強ストレスから)

【緩解因子】
起床時、目標があって動こうとする時、忙しい時

【その他の問診事項】
・雨天前、頭痛。
・出産後月経痛減少。月経前イライラ、月経後体調は良、主訴は不変。
・足が冷え、冬はこたつから出られない。
・口の中にピリピリした痛み、場所は日によって変化、口内炎出来やすい
・幼少期、扁桃腺炎で高熱出し、小学校時両扁桃腺切除。
・40歳に副鼻腔炎発症。
幼い頃から迷子になる夢をよく見る
・目の充血。
・主訴発症前に萎縮性胃炎になる。

【各種弁証】
八綱弁証: 裏(表証所見なし)、実(肝気上逆証)、上熱下寒。
臓腑経絡弁証: 肝:月経前イライラ、春季に発症、顔面診肝白抜け、舌辺剥げ、舌尖紅、弦脈、太衝、肝兪、胆兪、合谷、肝之相火右等の反応。

【弁証】肝気上逆証

【チャート図】

【病因病理】
過去に2回ストレスから同症状が起こっていますが、今回は、ご主人が単身赴任から戻ってくると分かってからの発症です。毎年春に、ご主人の転勤の有無でハラハラされる等、緊張もピークになっていたところ、嬉しさで肝気が上ったものと思われます。日常の過食や不安感等から胃に負担をかけていたため、普通は下降する胃気が逆に上がり曖気(ゲップ)が止まらなくなっています。
また、鍼治療の予約を入れた時から症状がやや改善されていることからも、症状に対する安心感から肝気(緊張)が緩んだためと思われます。したがって、この喉の閉塞感は、七情に起因する肝の疏泄機能失調により、肝気が上焦(喉)で鬱滞したものと考えました。

【治療方針と治療】疏肝降気(肝気を巡らせて気を下げる)

初診から6診目:太衝
8診目から10診目:後渓
11診目から14診目:太衝
15診目から20診目:後渓

【治療結果】
5診目には当初10だった主訴は2に軽減されました。痩せたと言われる事に対するショックもあり、6診目には食べ放題に行かれていますが、主訴の悪化はありませんでした。不安感も無くなり20診で治療は終了しました。

東洋医学では、この喉の閉塞感は梅核気といって痰と気が喉で結びついて発症すると考えますが、肝の疏泄機能が正常に働けば痰も巡り散ります。今回は気>痰の梅核気と考え、肝気を中心に治療し功を奏しました。日常的に多く見られる疾患です。

また、増悪因子に、何もせずぼーっとしている時を挙げられていますが、じっとしているため気が廻らない事での悪化と共に、ご本人の真面目な性格からも何もしていない事への罪悪感が緊張に繋がっていると思います。

ご両親共に小さい頃から厳しいご家庭に育った方は、往々にしてこのようにダラダラしている自身に対して罪悪感を持ちやすい傾向にあります。夢も小さい頃から迷子になる夢をよく見られてることからも、根底には自信が無く、ご主人等頼る人が側にいないと精神的に不安感が増すのだと思います。

日常、運動等で発散しながら、少しずつ心身を解放し自信を持たれる事で、ご本人の真面目な性格が良さとなって発揮されると思います。

2015年12月16日(水)

卵巣嚢腫による不正出血と下腹部痛 []

【主訴】卵巣嚢腫による不正出血と下腹部痛
【患者】40代 女性
【初診】平成27年3月

【現病歴】2年前、左下腹部激痛と不正出血が1か月続いたため、病院に行くと両卵巣に嚢腫が見つかる。鎮痛剤を1日3回服用するも緩解せず右卵巣を摘出。術後腹部の激痛は緩解したものの、術後から生理不順になる。(生理周期延長、出血量の増減、月経が10日以上続き貧血で動悸や立ちくらみが起こる等々)。
また、左下腹部痛(しくしくした重い痛み)が月経後から次の月経まで続き鎮痛剤を1~2回/日内服する。月の殆どは鎮痛剤を服用している状態にあり、医者から左の卵巣手術を勧められるが断り鍼灸院に来院される。

(月経状況)初潮時から生理痛有(1日目から2日目)。下腹部刺痛。血塊なし(手術前は血塊多)、生理前にイライラし、月経後落ち込む。月経後は貧血症状が出て疲れ横になりたい。月経前軟便、月経中普通便、月経後は兎糞状便(便秘薬を内服)。

【その他の症状】
・卵巣嚢腫摘出術後から、下肢が冷えやすい、重だるい腰痛、むくみ(顔>下肢)、のぼせ(夕方疲れた時と冬に多い)、考え事で不眠になる。
・不妊治療を試みるが卵子が出来ない。

【弁証】
脾不統血証・気滞血瘀証

【各種弁証】
八綱弁証;裏(表証所見なし)、虚(脾不統血)、実(気滞血瘀)

臓腑弁証;
脾不統血:不正出血が少量でダラダラ続く、薄い赤茶色、生理前軟便、月経後の脱力感と落ち込みや気分低迷。雨の日は体が重だるく腹脹し易い、帯下(水っぽく多量、臭い痒み無)、緊脈(初診時月経13日目)、胖大歯根有り、淡白舌、白二苔、両太白~公孫の虚(右>左)、右脾兪虚。

気血津液弁証;
気滞血瘀:月経前にイライラし月経後緩解、月経痛刺痛、血塊有り、ストレスで便秘。舌腹に数個の血腫有り、太衝、三陰交、肝兪反応有り、少腹急結(左)。

正邪弁証;
正気虚(ダラダラ続く不正出血、月経後横になりたい、運動で疲労感増、舌色褪せ、やや胖嫩、脈左2指押し切れる)
邪気実(入浴後や排便後に身体がすっきりする、月経前イライラ、脈力あり)
不正出血は正気の虚メインで、卵巣嚢腫は邪気実と考えるも、正気虚の状態から、邪気実の瀉法は慎重に考える。

【病因病理】
患者さんは、幼い頃から考え事で寝つきが悪く、環境変化で便秘する等神経質な性格だったようです。また中学生の頃から月経痛が酷く鎮痛剤を服用し続けていた為、胃がシクシク痛むことが多い上、肥厚甘味の食を好み、脾胃に常に負担をかけている状態でした。

脾胃が弱いところ、仕事でも人一倍頑張り肝気を高ぶらせる生活が続いたことで、月経痛が増悪し下焦に湿痰や瘀血が形成されたものと考えました。実母も子宮の病であったことからも下焦の弱りが似ていた可能性もあります。右子宮摘出後、腰痛やむくみ、冷え等が出現したことから下焦に負担をかけた可能性もあります。

不妊治療も試みられますが、採卵が出来なかった事からも、気血生化の脾胃が弱り、月経時の多量出血や瘀血等から血虚傾向になり、妊娠に必要な肝腎の陰血不足を招き、衝任(衝脈と任脈)を滋養できず不妊になったものと考えました。
以上の事から脾の統血作用が低下し不正出血が出現したものと思われます。

【治療方針】
益気健脾>疏肝理気(化瘀)

正邪弁証から、不正出血は正気の虚メインで、卵巣嚢腫は邪気実を考えましたが、正気の虚を先ず補い、邪気実は正気虚が改善に向かってから瀉法を加えて散らす方針とします。

【治療と結果】
1~5診目まで:公孫穴(虚側)
6~9診目まで:脾兪(虚側)
10診目 蠡溝
11診目~12診目まで 後渓
13診目:太白整えの灸11壮
14診目~19診目 後渓
20診目~26診目 太衝
27診目~後渓(現在も継続)

初診から脾の弱りを補う為に虚側の公孫と脾兪を補うと、ダラダラ続いていた不正出血が止まったため、補血と心神安定の目的で後渓を使いました。

途中、10診目の蠡溝(れいこう)は、左の子宮自体に熱感があり患部が痛んでいた為、肝経で子宮に繋がるツボで熱感を取りました。即効性がありました。
13診目の太白のお灸は、少し出血した後、疲労感があったため益気を目的に使用したものです。

脾の気(健脾)を補う治療で不正出血は殆ど止まりましたが、子宮のジクジクした痛みがあり鎮痛剤を服用されてました。治療を進めるうちに身体が軽くなり、15診目頃から殆ど鎮痛剤を使用しなくてもよくなり、月経も一週間で終わるようになり、仕事にも復帰されました。
まだ無理をした時は腹部が重くなったり、月経痛も出現しますので治療継続中ですが、月の殆ど鎮痛剤漬けの生活から、殆ど鎮痛剤を使わなくても良くなり鍼の効果を実感して頂いています。

肝、脾、腎と言えば最も肝腎要の臓です。この三者が身体の中で連携して健康を維持していると言ってもいい程です。

患者さんはこの三者のバランスを大きく崩して病が発症しましたが、常にこのバランスを調整しておけばお母さんと同じ病に倒れる事はありません。

この未病治が東洋医学の凄いところでもあります。

2015年11月21日(土)

動悸 []

【主訴】動悸
(その他の随伴症状)過呼吸、手足のしびれ、めまい。

【初診】平成27年7月下旬、39歳 女性。

【現病歴】30代前半、第一子出産直後に1回目の発作、突然の動悸、手足のしびれ、揺れる様なめまいが現れる。出産前の5か月間大きなストレスがあり睡眠不足が続いていた。抗不安薬で上記の発作症状は消え、その後8年間発作は出現しなかったものの、
第二子、第三子を出産し、育児、家事、仕事で多忙な中、2回目のひどい発作が出現する。動悸、過呼吸に加え、頭痛も出現し救急搬送される。ここから毎晩寝入りばなに動悸がして不安と緊張が増すようになる。

【増悪因子】
寝入りばな、乗り物等閉塞された環境、生理前、疲労時。
【緩解因子】
運動、集中時、食事量減らす。

【その他の問診】
・小さい頃よく行事前発熱していた。
・胃もたれ。
・下肢のむくみ。
・第一子出産後から生理痛が消失。
・妊娠時(三人共)貧血診断受ける。
・月経後身体は楽になる。(主訴に変化なし)

【弁証】心肝気鬱>血虚証。

【各種弁証】
八綱弁証:
裏(表証所見なし)
虚(血虚)
実(心肝気鬱)

臓腑弁証
(心肝気鬱)
肝気鬱:イライラ、月経後身体楽になる、喉が詰まる、(体表所見)顔面肝色抜け、両舌辺剥げ、左関上枯弦脈、太衝・肝兪の反応)
心気鬱(閉塞された所や緊張で呼吸困難、動悸、不安感(体表所見)顔面心部位色抜け、舌尖紅刺、両心兪反応、後谿の反応、心下~脾募の邪)

気血弁証
血虚:貧血、爪が割れ易い、月経過少、舌質色あせ、光が眩しい、心兪、脾兪、太衝等の虚の反応等。

正邪弁証
夜になると疲れてくる事や、脈幅も無い事からも正気の虚はあるものの、入浴後、生理後、運動後等に身体がすっきりする、動悸、過呼吸は運動後に変化しない事等から邪実が中心と考えます。ただ、血虚の所見が顕著に見られることや、寝入りばなに動悸が打ち、不安感が増すことから、バックには心血不足があり、血不足により気鬱が更に増すと考えました。(陰陽に分けると、気は陽で血は陰になり、血が減ると相対的に気が勝ち気血の陰陽バランスが乱れます。)
よって、心血を補いつつ気鬱を緩解するように治療をしていくことにしました。

【病院病理】
患者さんは、三人小さいお子さんを育てながら仕事もこなすという超ハードな生活を送られていました。その上 第一子出産前に寝不足が続き、出産後に身内を亡くされるという大きなストレスがありました。肝鬱気滞から、寝不足と心神に大きなショックを与えたことから心肝気鬱となり、動悸、不安感等の症状が発症したものと考えました。

【治療方針】
心肝解鬱
1診目~15診目まで:後谿穴 (2診目のみ申脈)

【治療結果】
1診目後から動悸は10→1~2に激減。3診目には動悸が気にならなくなり、電車の中などの緊張時も寝入りばなにも動悸は起こらなくなる。胃もたれや足の浮腫みも余程不摂生をしない限り解消された。

【考察】
現在も治療継続中ですが短期間でお元気になられました。この後渓のツボの効能がこの患者さんの証(今の時点での身体の状態を東洋医学的に一言で表現したもの)にピタリと一致したからだと思います。(心肝気鬱証<血虚証)

このツボは北辰会代表の藤本蓮風氏が半世紀にわたる臨床を積み重ねる中で、見出された重要穴です。同じ後渓でもそのバリエーションは様々ですので、この証のみに使用するツボではありません。(藤本蓮風著『経穴解説』参照)
またこの動悸は、緊張状態が続いて発症したものです。その緊張状態が少しの緩みもなくマックスに達した時、過呼吸を伴い救急搬送になっています。

更に、寝入りばなの動悸は、ホッとして意識する事なく気が緩んだ状態の時の発症と考えました。それは、この動悸は反対に気が張っていると、ある程度は抑えられるという事でもあります。実際そのようでした。

そこで、血虚の度合いはさほど酷くなく、抑え込んでいる気鬱のレベルが酷いと考えました。ただ、この患者さんの場合は、気鬱を解く事を中心に瀉法(気鬱を除くために邪をたたく事)をするより、少し血を補いつつ、心肝の気鬱も同時に緩解するという方法がいいと思い後渓を使用しました。これは功を奏したと言えます。

鍼の効果はこのように本当にシャープです。弁証を間違えず患者さんに安心感を持ってもらってこそ効果も倍増すると日々の臨床の中で改めて感じた症例です。

2015年10月24日(土)

不安感 []

【主訴】不安感(漠たる不安感によりじっと出来ない)

(その他の症状)不眠、精神不安定(特に怒)、頚肩の凝り、逆上せ、目眩、頭頂部の重さ、耳鳴、腰から下の冷え等

【初診】平成26年7月上旬

【現病歴】
・結婚後の30代の時、家庭内で強烈なストレスが起こり過呼吸や声が1ヶ月出なくなったりした。ここから不眠になる。
(眠剤と精神安定剤服用継続中)また多忙時にギックリ腰によくなる。
・50代で閉経するとホットフラッシュ、頚肩凝り、腰部鈍痛が発症。
・約1年前~精神的ストレスや心配から解かれた後から漠たる不安感が発症し現在に至る。

[増悪因子]ストレス時や焦った時、特に春先、雨天前。
[緩解因子]薬・カイロプラクティック・鍼灸など、何やかや治療してると安心する。

【その他】
・出産4回
・外食多く早食い、間食多い。
・お孫さんの世話など日々多忙。

【各種弁証】
八網弁証:裏(表証所見なし)、虚(腎虚、心血不足)、実(肝鬱気滞)
臓腑経絡弁証:腎虚(腰痛、耳鳴、尿モレ、口渇、手足ほてり、照海、天井の反応)
心血虚(不眠、多夢、不安感、心兪、神門~霊道の反応、舌色褪せ)
肝鬱気滞:ため息、情緒不安定(易怒)、何かしてないと落ち着かない、肝之相火、右肝兪等の反応)
正邪弁証:正気虚(入浴後疲労感あり、排便後少気あり)<邪気実(脈力、脈幅あり、老舌、声有力)*心血虚は見られるものの、脈状が有力等により、その程度は軽いと考えるが慎重に判断する。

【弁証】
肝気上逆・腎虚証>心血虚

【病因病理】
30代からの七情不和(心配事)や多忙さから、常に肝気が欝血(気の流れが滞る事)し易い状態にあった上、4度の出産と年齢を重ねた事で、腎精が不足し更に肝気が上逆した状態になったと考えます。

腎精と陰血は互いに転化し合っていますので、腎精が不足すれば、血に変換する能力も減少します。また、長年の睡眠不足が重なり、陰血不足から不安感や多夢、驚きやすい等の心神不寧という状態に至ったと思われます。

「脾を補うには腎を補うにしかず。腎を補うに脾を補うにしかず」と言われているように、脾の臓である胃腸が腎の弱りをバックアップしてくれますが、

この患者さんは肝気の上逆を下げるために、過食に走り脾の臓に常に負担をかけています。すると、湿痰という病邪が中焦(胃腸)に停滞し眩暈等が発症しやすくなります。この患者さんの眩暈は、頭を動かしたり、体位を変えたときに起こりますので、湿痰の邪が肝気上逆とともに耳中に持ち上げられ停滞した事が原因だと推測しました。

【治療方針】
上記の正邪弁証を考え、下焦である腎を補い肝気を下げる治療方法をとる。(当初週3回来院)

1診目→照海整え灸31壮の後、百会20分(8番鍼)
2診目→照海灸16壮の後、百会20分(同上)
3診目→照海整え灸31壮の後、百会30分(同上)
4診目→後渓30分
5診目→後渓30分
6診目~15診目まで 照海。
17診目~申脈、滑肉門、承満、不容、梁門、太衝など適宜一穴を置鍼。(眩暈の時は主に腹部を取穴)

【考察】
当初、この患者さんは問診の時点で話しが止まらず、爆弾トーク状態でした。また、常に新しい健康法を見つけては、試していいですかと聞かれたり、友人等の発言にも翻弄されておられました。不安であるほどこの様な状態は激しくなっていました。

この様な患者さんが、今ではすっかり落ち着き不安感は解消され、安定剤や眠剤も15診目には廃薬されました。周囲の友人から変わったねと言われるほど落ち着かれパニック等も全くおこらなくなりました。

現在も治療継続中で2週間に1度ほどのペースで来て下さっています。

鍼の効果はどれほど長く患っていても、必ず緩和されていきます。大きくバランスを崩す前に日頃から常にバランスを取とっておくことが如何に大切な事か、また、それが大病を防ぐことになると感じます。

2015年7月15日(水)

パニック症候群、右背中~腰・股関節痛 []

【主訴】パニック症候群、右背中~腰・股関節痛 60代女性
【初診】平成24年10月中旬
【現病歴】
右腰背部痛は20代からあったが、50代後半から右腰背部と股関節に鈍く突っ張る痛みが出現。10m歩くと増悪し、少し休むとまた歩けるという間欠性跛行になる。

パニック症候群は、40歳時、子宮筋線症のため子宮を全摘してから発症し現在も継続。症状は恐怖感で呼吸困難、ジット出来ない、動悸、不眠等。デパスを服用しながら生活している。

[増悪因子]
(腰部痛)歩行時。
(パニック)ストレス時、ジットしていると、不眠、夜中。

[緩解因子]
(腰部痛)右腰を押さえながら歩く、座る等静止時。
(パニック)服藥。

【その他】
・結婚後から様々悩むことが長年続いたり、周囲から頼られることが多く、常に気が張った状態が続いている。
・大食で野菜嫌い、肉・油物が多かった。
・高血圧(40代から)降圧剤服用中。
夜間尿5回足元冷え易く足首浮腫む(60代から)。

【各種弁証】
八網弁証:
裏(表証所見なし)、虚:(腎虚)、実:(心肝気鬱)

臓腑経絡弁証: 
腎虚
腰痛、後屈で増悪、間欠性跛行、夜間尿、足冷え易く夜火照る。
脈右尺位弱、腎経の経穴虚(照海、太溪、腎兪から志室冷)、命門熱感。大巨。

心肝気鬱:
ストレスで不眠・動悸・手足冷・呼吸困難等のパニック、ため息、イライラしやすい、神経過敏、感情の起伏有。
顔面心肝部位色抜け、脈弦脈、舌尖紅刺、神道・筋縮・膈兪~肝兪・心兪から膈兪(左神門・後谿の反応、心下~脾募、右肝之相火実。

【弁証】腎虚証~膀胱経経気不利、心肝気鬱証

【チャート図】下記のチャート図をクリックすると拡大します。

【病因病理】
様々な七情不和が長びく事により、肝気の上逆が過多になると共に、瘀血が形成し易い状態にあったと思われます。

そこへ、出産、肥厚甘味の大食、継続した緊張により、益々気血の流れを停滞させ、40歳過ぎに高血圧や下肢に静脈瘤を形成したと考えます。

40代で子宮線筋症のため子宮摘出した後、パニック症候群を発症されますが、これは下焦の弱りにより心肝の気鬱が悪化し、恐怖感や動悸、不眠等が起こったものでしょう。

右背部から股関節にかけての痛みによる間歇性跛行も、3回の出産、更年期、子宮や卵巣の摘出等により、下焦が極度に弱っている所、若い時のスポーツや左顔面部の怪我等により左右差(左上強打)が右下の弱りに乗じて(腎經の表裏関係にあたる膀胱の経脈に影響し気血が不足し巡らなくなる。)発症したものと考えました。

【治療方針】
腎、膀胱の気血を補いつつ、心肝の気鬱を解く治療を行いました。

1診目~2診目:申脉
3診目~4診目:大巨(右)
5診目から7診目:後谿
8診目から11診目:照海
以後、臨泣、合谷、百会、外関、滑肉門、足竅陰等を使用し、駆瘀血や風寒邪侵入に注意しながら治療。現在84診目。

【治療結果】
4診目で足の酷い痛みは殆ど消失します。また、よく眠れるようになるものの、時々パニックが出るため、配穴を後谿に変更。長年のパニックは28診目を最後に現在まで全く出なくなり、服薬無しでも発症しません。背部から股関節の痛みは、無理をすると痛むため月2回のペースで来院してくださっています。

【考察】
初診時から鍼灸を信頼してくださり(師匠にも治療を受けておられた事もあり)、非常に治療がし易い状況にありました。

長年のパニックに関しては、比較的早く薬も一切使用しなくても起こらなくなりました。ストレスは現在も継続して抱えておられますが、パニックには至りません。これは、心肝気鬱の実が中心であって、体全体の気血の弱りは酷くなかったからでしょう。
しかし、既往歴や年齢的にも腎虚等の下焦の弱りは酷いため、下焦を中心とした治療を継続することで、下肢の痛みも緩和されていくと思います。