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実千代鍼灸院 Michiyo Acupuncture Clinic

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症例

2010年7月14日(水)

妊娠に伴う浮腫 []

尼崎市在住 26歳 女性 主婦
主訴:浮腫(足>顔)

(病状・環境などの経過)
20代前半に左顔面にヘルペス、膀胱炎など患った他は健康だった。
23歳で初めて妊娠。6週目で子宮外妊娠となり赤ちゃんは駄目になるが、2年後再び妊娠。10週目で切迫流産しかかるも何とか持ちこたえる。つわりは軽かったが、9ヶ月に入った頃から浮腫がひどくなり、足がパンパンに腫れあがる。顔の浮腫みも出たが圧倒的に足のほうがひどかった。
出産前は1日何キロも歩くなど、かなりの運動をするが浮腫の改善は見られず、平成22年7月中旬、予定通り陣痛が始まる。子宮口がなかなか開かず微弱陣痛のため、陣痛促進剤を使用し、吸引分娩にて3日後やっと無事に出産を終えた。出産時出血が多く、動悸、ふわふわしためまいなどの貧血症状(検査の結果も貧血)がおこり、鉄剤を服用するもなかなか改善されず、浮腫も出産前よりひどくなっていった。体重も戻らず44キロから51キロまで増加してしまう。
このような状況の中、鍼灸院に来られているお義母さんから鍼灸治療を勧められ、往診にて、産後1週間目から治療を始める。

(その他の主な症状)肩こり、夜間尿3回、残便感有り軟便

(治療方針)体表観察にて舌の淡白色と白苔、顔面蒼白、足の冷えなどから貧血(血虚)の症状が酷く、背中の上焦(上のほう)の肌理(毛穴)が開き、筋縮穴の圧痛、舌の尖端に赤い点々(紅刺)がある事などを考え合わせ、血虚による脾虚証>肝鬱気滞証とし治療をする。
三里穴のお灸(左右の熱さが調うまで)と心兪穴(左)に鍼を施す。

(治療経過)
1回目の治療で尿の出がかなり良くなり、身体が楽になる。2診目後、足の指の付け根に少しだけ皺が出始める(浮腫やや改善)。4診目で足の浮腫は完全に消失し、貧血症状も改善された。多量の尿排出と共に体重8kg減となり身体も軽くなる。

(考察)
東洋医学でいう「脾の臓の機能」のひとつに「運化を主る」とあります。運化には、水穀の運化(栄養分を全身に巡らせる機能)と水湿の運化(水分代謝をする機能)の2つがあります。
この患者さんは、出産での出血多量により脾の臓の機能を著しく低下させ、水湿の運化に影響を与え浮腫が出現したものと思われます。また、水穀の運化は、胃の臓(胃袋に入った飲食物を消化)と協力し、それを血の源となる栄養素(水穀の精微という)の生成と運化を行っているのです。
利尿剤も使用せずこのように早く浮腫が改善したことは、三里(多気多血の穴)の灸によって血を増やしたことにより、脾の臓が運化作用を取り戻し、早い治癒につながったものと思われます。
三里の灸もはじめは21壮まですえないと左右の熱さが整う(同じになる)ことがなかったが、3回目には5壮で整うなど顕著な効果が見られました。(早く整うことは良好な証拠)
現在母子共に健康な状態にあり初めての鍼灸の効果を実感して頂いています。

2010年7月7日(水)

不妊症 []

西宮市在住 初診時40歳 女性 主婦
主訴:不妊症

(病状・環境などの変化)
小さい頃は元気だったが小学校6年のころから運動不足になると肩がよく凝るようになる。中学2年の頃、蛋白尿が出ることがあった。
31歳に結婚するが妊娠せず、35歳に婦人科へ行き不妊治療を開始。この時、慢性甲状腺炎(橋本病)との診断も受け、チラージンSなどを服用する。36歳の時、ご主人の仕事の関係で海外に3年間住み、その地でも体外受精に挑戦する。40歳に至るまで8回(計10回)の体外受精を受けたが一度も着床することは無かった。身体を東洋医学で整えてから不妊治療をしようと決意され来院される。

(その他の主な症状)
両方の肩こり、手足の冷え、よく便秘になる、時々小便の出が悪い、時々立ちくらみがする、白髪が増えた、生理痛は1日目から2日目にストレスがかかった時のみ起こる。

(治療方針)平成20年5月に来院される。体表観察による穴(ツボ)の状況と共に、肩こり、ストレスがかかった時に経痛有り、経血の塊が20歳前半まで多かった、便秘(黒っぽい)、皮膚の状態などの情報から、気滞瘀血証、それに伴う血虚証、冷え、時々小便の出が悪い、白髪などの情報から腎虚証と見立て治療を開始する。当初、三陰交、心兪、肝兪、後谿など取穴し、後半は、天枢、至陰の灸を施し身体のバランスを整えていくようにした。

(治療経過)鍼灸治療を開始して丁度1年後の5月に体外受精に挑戦したところ初めて着床する。しかし、8週目で心音が停止し堕胎となってしまう。
半月後の同平成21年11月に再度、凍結していた卵を戻す予定だったが、内膜が薄く1ヶ月延期となるが、平成22年1月末に内膜が8ミリになっていたので卵を戻した。1ヶ月経過しても子どもの成長が遅く婦人科では期待できないと言われるが、鍼灸治療を継続する中、子どもが急速に成長し、現在6ヶ月を過ぎ安定している。今年の10月出産予定で母子ともに順調の上、妊娠してから一度もつわりがなく安定期に入ると海外旅行に出かける程元気な状態である。

(考察)
患者さんは、初めの頃、週2?3回鍼灸治療にじっくり通われ、1年後に体外受精をされました。自分の体調を整えることに真剣に取り組まれていました。
また初めての着床は、残念ながら堕胎となりましたが、それより着床した喜びの方が大きく、更に淡々と鍼灸治療を続けられます。
2回目の卵は大きくならず不安もあったと思いますが、「(小さいから)カスミちゃんなんです」と笑顔で不安も吹き飛ばし、最後まで初心を貫く姿勢、変わらず鍼を信じて下さる姿勢に、必ず成功すると私も確信していました。
年齢的にも焦りや動揺があって当然の状況のなか、常に淡々と治療に来られ言われたとおり運動(歩くこと)などに挑戦されました。この彼女の努力と精神力に大きな拍手を送りたいです。

2010年3月11日(木)

特発性難聴 []

特発性両側性感音難聴

原因不明の感音難聴のなかで、両側性に難聴が進行する病気で、めまいを反復するものや遺伝性の疾患は除外される。難聴は両側同時に進行するとは限らないため、左右の難聴の程度が異なることもある。まれに一側性のものもある。
随伴症状として、耳鳴りを伴うことはあるが、めまいを訴えることはあまり多くない。
突発性難聴は、難聴が一側性で、発作は一度だけで反復はしないとされている。

東洋医学的には、耳鳴りと耳聾(難聴)は密接な関係があり、耳鳴りは耳聾の軽症で、耳聾は耳鳴のひどいものであるとしている。
その病因は約10種類ほどに分類されている。

症例:特発性難聴
患者:34歳 女性
初診日:平成21年12月

(症状の経過)

看護師として就職してから、食生活の乱れや運動不足などが重なり、徐々に肩こり(特に左)を感じるようになる。その後も常に多忙な生活を続け、昨年10月夜、初めて高音の耳鳴りを左耳に感じ、うるさくて眠れず、1週間眠剤を服用する。
耳鳴りはキーンとした高音で間欠的に持続するが、嘔気、頭痛は無い。
聴力検査では、左耳の聴力は0。ステロイド点滴を10日間受けるが0から3にしか改善されず、神経ブロックを施す。会話以下の低音は5以上になるが、一日中耳鳴りが止まらず、大きな耳鳴音が割れて入ってくる等、苦痛を訴えられ来院される。

その他の随伴症状:首、肩こり(左)、湿疹が出来やすい(首・顔の一部)、扁桃腺をよく腫らす、手足が冷える、生理痛(2?3日目)など。

東洋医学での診断と治療

(気滞?肝気上逆体質)
気が全身の経絡をスムーズに流れていてこそ痛みや凝り感がないと東洋医学では捉える。
患者さんは、常に肩を凝らしていたことや、ため息がよく出る(ため息は詰まった気を解こうとする生理現象でもある)など肝の気滞症状が見られる。また、北辰会独自の負加試験としている運動後、大小便後、入浴後、生理後などで身体がすっきりするなど、患者さんの体力は充実しているので、休むことも無く頑張り過ぎてしまう傾向にあったと思われる。東洋医学では、体力が充実していることを、正気がしっかりしていると表現する。
正気がしっかりしている事は、脈力(この患者さんは弦脈)の有無、舌の状態などでも知ることができる(舌がしっかり出せるかどうかなど)。
また、東洋医学での診断に於いて、主訴に対して、増悪因子(どのような時に主訴が悪化するか)と緩解因子(どのような時に主訴が軽くなるか)を知ることは、その病の原因を探る上でのポイントになる。
増悪因子:1日中耳鳴りはするが、仕事中は周りがうるさいため、特に帰宅後は耳鳴りが大きく感じる。
緩解因子:朝起床時、リラックスした時。
患者さんは、リラックス時に耳鳴りが楽になる。この事は、ストレスなど肝気の高ぶりによって耳鳴りが起こり、その肝気の高ぶりが更に昂じ、肝の経絡と表裏の胆の経絡(耳に入っている)を犯し、耳鳴り、難聴が生じたものと考えた。このように肝気の高ぶりが更に昂じて上へ昇ることを肝気上逆という。

(語句の解説)
負荷試験入浴や運動、排泄後に疲労感や主訴が悪化するものは、正気が弱っていると考える。正気が弱っている時に強い治療などをすると、病気と闘う元気が無くなり病邪に負けてしまうので注意を要する。正気の弱りの程度を知るのに有効。
表裏関係肝の臓と胆の腑のように臓と腑は表裏関係にあり、互いに密接な関係を持つ。耳には胆経、大腸経、小腸経、腎経、三焦経などが深く関与している。

(瘀血傾向)
気滞が長引くと「気」と共に「血」の流れが悪くなり、血の塊を身体の中で形成しやすくなる。この状態を瘀血(おけつ)と呼ぶ。
この症状は、舌の舌下静脈の怒脹の度合い(写真下)、または舌の紅点が黒点に変化したり
舌の色が暗紫色になったり(同写真)、肌の色や爪の生え際の黒ずんだ色などうっ血状態で観察される。


舌の先の赤味と紅点は肝気上逆を示す


舌裏の静脈の紫色は瘀血を示す

証:肝鬱気滞・肝気上逆

以上のことから、素体(体質)として瘀血傾向にはあるものの、長年の鬱積した気の滞り(肩こりなど)が長引き、それが上逆した事によって耳鳴りが生じたものと考えた。
治療穴として後谿穴(こうけい)(左)に3番鍼で10分の置鍼から始める。後谿穴は専門的に言えば、奇経八脈の督脈(全ての陽気を調節する)を支配し(また手の太陽経が大椎に流注し、督脈と交わることから督脈の主治穴になっている)つまり、このツボは一身の熱に関与し(内熱を冷ます)、心神(精神)を安定させる作用ももっている。

(治療経過)

2診目までは耳鳴りの変化は無かったが、身体が温かくなったとの自覚あり(気がめぐり出した証拠)。
3診目から治療後は高音の耳鳴りの頻度がましになり、4診目の検査の結果、低音は正常値、高音も半分は回復。耳鳴りの頻度は4回目の治療で、初診時を「10」としたら「2」にまで改善される。勿論、薬は全く使用していない。
現在は、概ね症状が改善され、多忙時でも耳鳴りを感じなくなってきたばかりでなく、肩こりも楽になり上半身によく出ていた汗も出なくなる。
また、他覚的にも顔の黒ずみが薄くなり、手足が施術後すぐ温まるようになり、気血のめぐりが良くなってきたと思われる。

(考察)

難聴は、悪化していくとコミュニケーション障害が最も深刻な問題となる。
その上、耳鳴りを生じると、他人には分からない苦痛を伴いながら生活しなければならない。西洋医学では難治とされているこれら難聴は、東洋医学では耳のみを診るのではなく、上記の様に、身体全体のバランスの崩れを見出し、その原因に対しバランスをとる様に鍼灸治療でアプローチしていく。肝気が最も盛んになる、いわゆる木の芽時、2月からの春季に多くの患者さんがメニエール氏病や突発性難聴で来院される。
このことを考えてみても、耳のみを診て薬のみで解決することのほうが難治だと考える。

(参考資料)
経穴解説 藤本蓮風著 メディカルユーコン社
臓腑経絡学 藤本蓮風監修 アルテミシア社
症状による中医診断と治療 燎原社

2010年1月21日(木)

シェーグレン症候群 []

(膠原病の概念)

膠原病は、結合識病とも言われ、多くの場合、細菌やウイルスから自分を守ってくれるはずの免疫が、何らかの原因で反対に自分を攻撃してしまうという自己免疫疾患と考えられている。
全身性エリテマトーデス(SLE)は代表的な膠原病で、全身性硬化症、皮膚筋炎、多発性筋炎、関節リュウマチ、シェーグレン症候群なども一連の膠原病の疾患とされている。
原因は明確には分かっていないが、多くの臓器に慢性炎症性病変を生じることが特徴で、神経系(中枢神経、末梢神経、筋肉)にも様々な病変が生じる。
西洋医学での治療は、ステロイドまたは、消炎治療薬を用いることが多い。

(シェーグレン症候群)

シェーグレン症候群は、感覚障害を中心とした末梢神経障害や脳神経である三叉神経障害などが起こることがあるといわれている。
また、涙腺や唾液腺の分泌を障害し、ドライアイやドライマウスなどという症状が起こる。
男女比は1対14と圧倒的に女性に多く40歳から60歳の中年女性に比較的多く見られる疾患である。

(症例1)

主訴:膠原病(右頬の腫れと円形脱毛症)
患者:29歳、女性、会社員
初診日:平成21年3月27日

(病状の経過)

昨年(平成20年)4月頃、右耳から後頭部にかけ大きな円形脱毛症があることに気づき、11月末頃から右の頬が赤く腫れて、触ると響く様な痛みや熱さを感じるようになってきた。12月に入ってからはそれが右頬全体に広がり、口の渇きや手掌の痒みと乾燥等が出てきたため病院で検査を受ける。
検査では、IGE(アレルギー抗体)の数値が高く、ガムテストなどでも唾液分泌が少なく、唾液腺に炎症がみられたためシェーグレン症候群ではないかと診断される。
翌月1月からステロイド(副腎皮質ホルモン)治療を始め、プレドニンを使用。(25?を2日間→3日目から15?を3日間→後7.5?を服用)。この時点で右頬の腫れは引いたものの、しばらくすると目の下の腫れが再び出現しステロイドが増量される。またステロイド剤による副作用で、肝臓数値が高くなり、顔の腫れもなかなか引かず(MRI検査で炎症が認められる)西洋医学の治療のみでは不安になり当鍼灸院を受診される。

(東洋医学での診断と治療)

(内熱体質)

この疾患は、西洋医学でもいわれている様に炎症性の疾患である。
問診から得た情報でも、患者さんの体質が熱に傾いているという事は明らかで、口の渇きがある、普段から便秘(3日に1回兎糞状のコロコロ便)、口内炎が出来やすい、頭が痒くふけが出易い、胸焼けなどの情報からも察知できる。
また、仕事のストレスなども重なって夜寝つきが悪くなるなどの症状も起こる。
寝つきが悪いのは、様々な原因が考えられるが、仕事などでストレスがかかり肝が高ぶった事により起こったものと考えた。

(気滞体質)

更に患者さんは、大学卒業後就職してから運動不足と共に気を使うことが多く、常に肩(右>左)が凝る様になってきた。ひどくなると偏頭痛や頭のピリピリ感もおこる。肩こりは、気滞(きたい)といって気の流れが悪くなり滞ってくる、いわば気の交通渋滞のようなもの。肩、特に右肩で気の交通渋滞が常に起こっている状態といえる。

(肝鬱化火・内風証)

以上の情報を体表の観察(実際にツボの状態、舌診、脈診などを診る事)と合せた結果、
「肝鬱化火・内風証」と診断。熱は上に上がる。気の偏りが普段から右上にあるところ内熱が上(特に右側)に上がったため、右の顔面が腫れ、その熱が1.内風(ないふう)を起こし右の後頭部に円形の抜毛がおこったものと思われる。
治療は、百会(頭上にあるツボ)や霊台(背中の中央やや上にあるツボ)のどちらか1本、風邪が少しでも進入した時は、外関を加え鍼を施す。

1.内風→上焦(上部)に熱が盛んになると、陽炎のように風が起こること。緊張して手が震えるなども病的なものではないが、内風にあたる。

(治療経過)

初診時に遅れていた生理がきて、ひどい口の渇きがなくなりる。顔の赤みと腫れは2~3回の治療で大分引き、便通もよくなってきた。16診目ごろには肝臓の数値がかなりよくなり、24診目にはアルバイトが出来るまでになる。脱毛もほとんど無くなり30診目には社会復帰を果たす。
ステロイドは肝臓の数値がかなり高くなっていたため4診目くらいで使用はしていない。
現在は、肝臓数値も全て正常に戻り上記の症状も改善され元気に働かれている。

(考察)

患者さんは、病院を何度か変えられ当鍼灸院に来られた。
鍼灸に対しても確信が無い中、悪化してくる症状に不安そうに来院されたが、数回の治療でどんどん改善されていくのを感じ、まず表情が明るくなっていった。
特に難病と言われる病気を若くして抱えてしまうとそれ自体で心が塞がってしまうもの。途中、我慢強い本人も当然、何度か不安になったこともあり、自分から友人に話をしたり心をオープンにしていくようアドバイスなどもさせて頂いた。
北辰会代表藤本先生は、常々、「鍼灸は身体と心と魂をも変えていくことが出来る」また、「特に難病を診る場合は、治らない病ではなく原因が心因(抑うつやストレスなど)の場合が多いので、何より診察するこちらが難病を恐れたり負けてはならない」と言われたことがある。
患者さんが少しでも良くなっていったことに希望を持たれ、その希望が益々身体によい影響を与えたのだと感じる。
ただ身体のみを診ただけなら完治は難しかったかもしれない。
心の変化をしっかりキャッチしながらお互いの信頼関係の中で治療を進めさせていただけたことに感謝します。

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