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実千代鍼灸院 Michiyo Acupuncture Clinic

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症例

2017年2月1日(水)

突発性難聴 []

68歳女性 平成28年5月中旬初診
主訴 突発性難聴

【主訴】
1ヶ月前、法事のため遠方(高知県)に出かけ神経を使った上、なま物を過食。帰宅した翌日の起床時、右耳に突然の激しい耳鳴りと耳閉感が起こる。眩暈も伴う。その2日後、左耳にも同じ症状が出現。約1週間のステロイド内服で激しい耳鳴りは治まるが、右耳の低音(時々高音)の耳鳴りが残る。聴力は左右共に正常。

増悪因子: 夜寝入り時、室内(耳鳴りがよく聴こえて苦痛)、雨天前、春と秋
緩解因子: 入浴中、ウォーキング中、屋外

【既往歴】
・幼少期から虚弱で扁桃腺炎や、心臓神経症(動悸、息苦しい、不安感、不眠)をよく起こしていた。
・第一子出産1年後、回転性の眩暈(嘔吐)メニエール氏病と診断。
・更年期頃から風邪を引くと喘息発作を起こすようになり、その後、副鼻腔炎、甲状腺機能低下症、間質性膀胱炎等を発症する。
・4年前春 右耳のみ低音の耳鳴り発症。
・1年前秋 右耳のみ低音の耳鳴り再発。持病の喘息症状も同時に出現。

【病因病理】
小さい頃から心臓には器質的な問題はないものの(検査済)心臓神経症の症状(動悸、不安感、不眠等)がよく起こる事から、体質的に心気の弱りがあったと思われます。心気を消耗すると心血が減少し益々不安感や動悸、不眠になり悪循環に陥ります。
また、患者さんは、かなり我慢強い方で様々な事があっても発散することなく生活されてこられたようです。(かなり酷い便秘で薬を長年常用)。便秘薬使用に関して常にストレスを感じておられます。
出産後は、腎が弱ったところ肝鬱により肝の臓の表裏である胆経に左右差をおこして回転性の眩暈が発症したと思われます。
更に、更年期あたりから腎が益々弱り、上下バランス(肝と腎の臓を中心に)が乱れ、上記のように様々な病気を発症されます。
加齢のため腎が弱ることにより、それを支える脾の臓の運化作用も低下し、上焦に湿熱を溜め副鼻腔炎や喘息発作を起こしやすくなったと考えました。
今回の突発性難聴の爆音は脾胃の湿痰が胆経に沿って上逆し、痰火となって塞いだ為に発症したものと思われます。主訴の低音の耳鳴は脾腎の弱りが中心と考えますが、心身安寧の為に心の蔵に関わる穴にアプローチし心気を補い、後、脾>腎に対する治療を施します。

【証と治療】証:腎虚、脾虚湿盛

初診~3診目:心兪(2番鍼、初診のみ5分、他25分置鍼)
4診目~24診目:滑肉門、魂舎、天枢のいずれか1穴。(5番鍼で30分置鍼)
(21診目のみ打診+古代鍼で十井穴…熱中症の為)
25診目:公孫(右)(2番30分置鍼)食欲不振の為。
26診目~27診目:不容(右)2番30分

【治療効果】
初診の治療後から夜中目覚めず、ぐっすり眠れるようになり、夜間尿も無くなりました。心兪3回の治療で耳鳴りもかなり小さくなり今まで出来なかったお昼寝も出来るようになり、5診目ごろから喘息のステロイド(吸入)を使用しなくても発作は出なくなり、たまに咳が出る程度になる等、鍼の効果が顕著に現れました。耳鳴りは高音の日や低音の日など、日によって症状はまちまちでしたが、12診目頃には耳鳴りは消失しました。

【まとめ】
70歳前の患者さんで脾腎の弱りが顕著でしたが、耳鳴りだけでなく喘息も完治されました。医者に診てもらうと雑音が無くなっていると驚かれたようです。一生薬は切れないと言われた喘息が治った事でご本人も信じられない様子で喜ばれています。
患者さんは今までご苦労が多かったようですが、とても素直な方で鍼をされるたび心身が安定されるのがこちらも感じました。
元気になると正直なもので手づくりのビーズのくまさんや素敵なリース等作って下さる等、動作も表情も本当に若々しくなられました。
ご苦労してこられた分、益々お元気で幸せな充実の毎日を過ごして頂きたいです。

2016年11月14日(月)

眩暈 []

60歳女性、平成28年3月下旬初診。

主訴:回転性の眩暈→ フワフワした眩暈。

(眩暈履歴)
★1回目約6年前12月→ 夜布団の中で眩暈(回転性)身体動かせず首を右下のまま静止。
★2回目約5年前5月→ 夕食後7時~翌朝6時迄同上の眩暈(回転性)で一睡もできず。
★3回目約半年前10月末から11月→ 起床時に眩暈(回転性)し初めて嘔吐。安定剤と眩暈止め薬服用し改善。血圧も突然180/110に。3回とも眩暈時は息苦しさも伴う。

*1回目と2回目は家族介護で多忙時、3回目は引っ越しで多忙後ホッとした時。

増悪因子:精神的ストレス、不眠。緩解因子:ぐっすり寝た時。息苦しさはゲップで緩解する。

七情:心配性、娘さん曰く「母は全ての人の苦しみを自分のものにしてしまう」

(体表観察所見)
舌(写真)、脈(4至半強、滑脈、尺位左虚、幅無、力有)、原穴:太衝左虚、太白~公孫(左)、内関右実、外関左虚、百会(左)熱実、右心兪実、右脾兪虚、左陶道から神道までの1行実。
その他:手顔中心にかなり黄色、スタッフ体表観察中に腹部、背中が発疹出現。

【チャート図】


(チャート図上をクリックしたら大きくなります)

(治療)
初診:申脈(右)2番10分。
2診目~4診目:後渓(右)→(左)→(右)30分
5診目~25診目:太衝(左)。

(治療効果)
初診後よく眠れて、2診目から不安感が半減。回転性の眩暈はなくややフワフワした眩暈有り、3診目には公孫や太白等の穴の状態が改善される。眩暈消失。鍼治療後眩暈は一度も出ず。心配し過ぎる事も全くなくなり精神的に安定。

(まとめ)
遠方から根気よく通院して下さり感謝いたします。小さい頃から虚弱の上、ご家族や人の心配ばかりして身体を酷使されてましたが、鍼をされてから体力が出てこられました。

5診目から25診目までは、左太衝穴を使用しました。ツボの左右差が整う事が大事なのですが、整うのには時間がかかりました。これほど身体のバランスが偏っていた証拠です。

何より精神的に安定され、その姿に現在、娘さん夫婦、お孫さん達も通院して下さっています。鍼は心身共の健康を得られる優れものです。

2016年11月14日(月)

眩暈 []

65歳女性、平成28年3月中旬2年ぶりに来院。(前回主訴は右臀部から大腿外側部痛)

主訴:3日前の朝から回転性の眩暈で何度も嘔吐。(嘔吐後の眩暈不変)。食べると嘔吐のため食不振。頭を動かすと眩暈で嘔吐になるため3日間寝たきり状態だったが、かなりゆっくりなら歩けるようになりご主人の車で来院。
随伴症状は不眠(眠剤使用)、便秘、腰痛、舌腹ピリピリ、手足厥冷。

現状:船酔い様で頭に重いものが載っている感じ。頭を動かせず。

1ヶ月前から軽い眩暈有り内科の薬を服用。肩こり酷かった。(右>左)
2週間前に酷い風邪を引き、治った直後に孫を預かり、その後好きな裁縫に根を詰めていた。

(体表観察情報)
舌診:紅舌、舌尖紅緯、紅刺多数、両舌辺剥け、中焦から下焦に厚膩苔、
脈診:4至半弦脈、中位に緊脈。有力、幅やや有、実の穴トップ右内関、虚中実の穴(腕骨~神門~霊道、照海、申脈、臨泣全て左)、百会右熱。

【チャート図】


(チャート図上をクリックしたら大きくなります)

(治療と効果)

1診目:申脈(左)25分:頭重感まし、手が温まり頭が軽くなる、弦脈緩む。舌潤に、舌尖赤みまし。

2診目:上向きに寝れるようになる。昨夜から嘔吐無、今朝少し食べれた、船酔
い感まし。横向きになると眩暈がしてしばらくするとましになる。
腹診:左脾募から天枢邪、臍周熱、右肝之相火、左大巨。脈幅力なし。
滑脈。両裏?兌の灸31壮の後、申脈(左)20分。

3診目:裏?兌灸9荘の後、後渓(右)30分。すっきりした顔で来院。食事
出来るようになる。排便有り。

4診目:臨泣(右)5番30分。起き上がって横になると眩暈。空腹感出てくる

5診目:臨泣(右)2番30分。完治。

(まとめ)
当初ひどい状態で来院されました。ベットに横になれなかった為、初診時は
座ったまま治療しました。

激しい嘔吐を伴う回転性のめまいは、東洋医学では「痰濁」という邪気が脾胃(胃腸)を襲った為に発症する場合が多いです。

単純に身体全体を考えてみても、上部に重心がかかり過ぎて、且つ、左右バランスが大きく崩れていれば、駒と同じく回転します。

その身体全体のバランスの崩れと、胃腸の弱りを意識して治療をしました。

舌の状況を見れば、かなり赤く(特に舌先)上部に熱が偏っているのは明らかでしたが、2診目からお灸を使用しました。これは特殊例です。(中途半端に熱に熱を加えると悪化する可能性が高いので要注意です)

しかし、中焦脾胃の湿邪を灸で乾かす意味と、強烈に上へ上った気を引き下げ、左右バランスも整える理由で裏?兌に調えの灸を施しました。

毎日5日間通院され、結果すっきり完治されました。

何かあった時に、それもこのように重症な症状の時に鍼を信じて来て下さる患者さんに心から感謝します。

2016年8月17日(水)

関節リュウマチ(痺証) []

今年2月に「関節リウマチ」が主訴で来院された60代女性の症例です。

【症状】
約15年前の更年期辺りから疲労感と共にカゼをよく引くようになり、その頃から上半身の関節や両足首が腫れ出しリュウマチの診断を受ける。服薬でましになるが、昨年からの復職を機に、左膝外側や足首の腫れと重だるさが出現し歩行困難になる。
リウマチ数値は高く、シェーグレン症候群も併発。

【随伴症状】
・もともとふっくら体型で、便秘傾向。
・長年仕事・家事・ボランティアなど多忙な日々が続いており常に睡眠不足。
月経前に関節が腫れ、月経後に治まるのを繰り返していた。
甘味好きで、食べ過ぎて胃もたれ。
雨天時、身体が重い。
・2年前 肺癌で肺一部切除。

【増悪因子】
スターティングペイン(ジッとしてから動かし始める時に痛む)
膝関節を伸ばす
冷え
雨天前

【緩解因子】
温める(入浴やカイロを患部に貼る)
雨天時

【病因病理】
証:肝鬱気滞~湿邪偏勝(着痺)

物静かな患者さんですが心に闘魂があり日々我慢強く生活されておられるように感じます
我慢が昂じると緊張になり、実際その緊張を緩めるために甘味の物を多く摂取されています。

そのような生活が継続すると、体内に湿邪が形成され雨天時に身体が重くなります。
その上、緊張のため便秘することで湿邪が降らないばかりか熱邪となり、その湿熱邪が関節等に停滞し易くなります。

リュウマチ発症時に風邪をひきやすくなる等、衛気(体表の気)も弱ることで、簡単に外邪(気候変化)の影響を受けやすく、気機の流れを更に阻害しやすい状態になったことでリュウマチが発症したと思われます。

【治療方法】
肝鬱の気を巡らせることで湿邪の停滞を除き関節の腫れと痛みの緩和を目指します。

気機の巡りに深く関与する合谷の虚側を使用することにしました。合谷の虚のツボが修復することによって、気の巡りを正常に戻すことが目的です。

【治療と経過】
1~3診目まで合谷を補うと腫れと痛みがみるみるうちにひいていきました。

合谷の左右差が消えてからは、数回後渓で心神を安定させ、次に天枢で長年のストレスからくる脾の弱りを改善していきました。

杖も使用せず歩けるようになりました。さらに、手のこわばりや夜間尿も無くなり、足裏のタコまで消えてしまいました。

【まとめ】
関節リウマチを東洋医学では「痺証(ひしょう)」といいます。リュウマチ反応が出ていなくても関節が腫れる等の症状は「痺証」という概念で診断していきます。

『素問・痺論』には「風寒湿の三気まじわり至りて合して痺と為す」とあります。痺病が久しく癒えず反復外邪に感じれば進行して臓腑の正常な機能に影響することを指摘している。と言われています。(東洋医学鍼灸ジャーナルVol22 参考)

症状そのものは実のように見えても、繰り返し起こる等の長患いは基本的に裏に虚があると考えます。虚があれば外邪にも感受しやすくなります。更年期や出産後に発症している患者さんが多い事からも分かります。

この患者さんの虚は肺癌等も患っている事からも衛気の弱りと脾の弱りがウエートを占めているように思います。

また実際に痛むところを手で触ってみて熱感や冷感などを感じる事が大切です。この患者さんの場合は奥の方にやや熱感はあるものの冷感が中心でした。この冷感自体は湿邪停滞による冷えだと判断しました。

更に、リュウマチの発症状況変化も重要です。当初は体の上部中心の関節に出ていたものが、下半身中心になり、下半身の中でも膝から足首に痛みが下がったとなれば、下半身のツボは出来れば使用しない方がいいと思います。病を下へ引っ張り痛みを加速させる可能性があります。

経絡からどの臓腑が病んでいるかを探っていき四診合参して診断していくことの大切さを感じました。

2016年7月27日(水)

一過性意識障害 []

昨年10月に「一過性の意識障害」が主訴で来院された30代女性の症例です。

【症状】
約1年前夏頃から1年の間に突然意識が無くなり外出先で倒れる事7回(数時間意識が戻らず)。加えて、月経前に帰宅直後、玄関先で意識を失う事が毎月のように起こり、月経中(特に一日目)は外出先で意識が無くなる。

【随伴症状】
・立ちくらみ、フワフワとした眩暈(地に足がついていない感じ)と動悸。

・食欲減退、嘔気(嘔吐なし)

・後頚部の張りがひどく首の回旋不可(左右共)。

・便秘と軟便を繰り返し、排便後栄養が全部出る感じがして疲労感が増す。(以前は便秘傾向)

・往復40分の徒歩通勤で疲労感。ビタミン剤を服用してお昼動ける。

・無汗(入浴時、運動時も)。入浴後息切れ。

・寝つき1~3時間かかる、多夢。

【増悪因子】
肩こり~頭痛時、疲れすぎた時(月経前と月経後1週間に疲労感増悪)

【緩解因子】
肩こりに関して:1~2時間横になる、頭頂部の指圧。

【病因病理】
この患者さんは、様々なストレスがあっても中々発散することが苦手で内にこもってしまうタイプです。発散できないと、(肝)気の巡りが停滞してしまいます。

彼女の場合は、慢性肩こりが悪化してから発症していますので、肝気の停滞が体の上部に起こりやすい傾向にあります。地に足がついてないと感じるのもこのためです。

更に、悶々とした悩みが継続すると、脾胃に影響がでます。それは、食欲不振や便秘や軟便からも分かります。

脾胃は気血生化の源と言われているように、脾胃の弱りが継続すると栄養不良になり気血が不足し、貧血症状等が現れます。月経中の動悸や疲労感等からもわかります。

そして、血が不足すると、精神が不安定になったり、不眠になり易いです。不眠になると血を養えず更に不安感が増すという悪循環に陥ります。

月経中に発症するのは血虚(不足)のためで、月経前に発症しているのは、子宮に血が集まって髄海(脳)に血が不足するためと考えました。脈や舌、その他ツボにもそれらの反応が表われていました。

よって、証は、肝気上逆<心血虚証による意識障害として治療していきました。

【治療と経過】
1診目は打診を使用して、上に上がった気を下す治療をしました。2診目以降は、後渓を中心に、血を補いつつ上の気を下げ精神を安定するように治療していきました。
時々、配穴を三陰交に変えたり、脾兪を補ったりしていきました。

4診目ごろからよく眠れるようになってきました。強いストレスがかかると不眠になり、胃痛(空腹時痛は胃酸過多傾向→胃気逆)が生じます。

現在まで週1回の鍼治療を始めて2か月後の年末と春3月の2回倒れましたが、春は月経前でしたので、月経前には詰めて治療するようにすると、倒れなくなりました。

現在治療継続中です。経過は良好で多少のストレスがかかっても月経時でも倒れなくなりました。

【まとめ】
一過性の意識障害を東洋医学では「暈厥(うんけつ)」と言います。
『症状による中医診断と治療』では、「突然に意識が消失して四肢(手足)が冷え、一定時間の後に覚醒して、失語・顔面神経麻痺・半身不随などの後遺症を伴わないこと」とあります。

このような意識障害の症状には、鍼治療の効果大です。ただ、弁証分型も上記の著には6つ程挙げられており、多面的観察をしっかりして総合的に判断する必要があります。

また、その時点での証だけでなく、病因病理を把握して病の流れをつかむことが重要です。

実際この患者さんも、初めは虚>実を中心に治療していきましたが、治療過程で右内関というツボに熱を持って張ってきたり(沈んでいたツボが浮いてきたと考えます)、細脈が弦脈に変化したりしてきましたので、

治療戦略を変える(実>虚)必要があります。よって百会や督脈等実側のツボを時々使用しています。

身体からしっかり治療していけば多少のストレスにも強い心神になり根治できると考えます。