大阪市在住 26歳女性
主訴:動悸
初診日:平成24年7月上旬
(現病歴)
小学生の頃から、緊張したり、運動したりすると動悸し脈拍が通常の2倍(150―160)になるため、深呼吸しておさまるのを待つ。(2分~5分程)
今まで検査をしても異常は無かったが、昨年の検査にて「発作性上室性頻拍」「心室期外収縮」と診断され、脈を調える薬を朝夕一錠ずつ服用するも変化は全く無かった。
ここ1~2年仕事で緊張することが多く、冬は便秘になり動悸が頻繁に起こる。その時、心臓が上がってくる感じがして、貧血様症状になりふらつく。また、寝入ったところ首を締め付けられるように息苦しくなり、動悸して目覚める事が、10分~20分単位で2~3時間続くとき有り。
この時の動悸は上記の発作とは違う感じがするが、何れにしても動悸に対する不安感が大きく、実千代鍼灸院に通っている友人の紹介にて来院される。
(その他の症状)
・高音の耳鳴りが最近は頻繁に起こる。また、肩こりや肩甲骨の凝りから頭痛になること(両こめかみ)が以前からある。
(その他の問診事項)
・動悸は、緊張時、焦ったとき、飲酒後、蒸し暑いとき、走った後などに悪化する。
・飲み物は、冷飲を好むが常温にしている。
・汗は多い方で冬でも時々寝汗をかくとき有り。
・睡眠は、寝付くのに30程かかり、夢も幼い頃から追いかけられる夢や、火事や津波の夢も多い。
・生理痛(生理1日目)も酷く、生理前に過食や便秘になり、生理後身体はスッキリする。(医者に芍薬甘草湯など処方されるが、甘草が入っている漢方薬を服用すると吐き気がするので中止)
(特記すべき体表観察)
顔面診:心・肝・腎の部分が色抜けている。
舌診:暗紅舌、舌先紅点多数、白粘苔、老舌(舌力有り)。
脈診:1息4至半、脈幅力とも有り。
原穴診:虚:左太淵・神門・外関・太衝・照海・申脉。
虚中の実:左後溪。
腹診:やや右大巨、胃土、左肝之相火、右脾募の邪。
背候診:督脈上神道から下全て圧痛熱感有り、左厥陰兪~心兪実、右志室虚。
(診断と治療)
この動悸は、緊張した時、飲酒後、蒸し暑いとき、走った後など一時的に体の中に熱がこもった時に起こるのが特徴です。
更に、汗が多く冬でも寝汗をかく事があり、寝付きが悪いという症状を伴います。
これは、東洋医学の動悸の原因の中では、心火上炎(しんかじょうえん)に属すると考えられます。ストレス過多によって本来、熱性の強い「心の臓」に更に熱をこもらせて発症するというものです。
心の臓の火が盛んになるということは、陽と陰の関係で言えば陰が減少するということになります。陰が減少すれば、特徴として上記のような寝付きが悪い、寝汗をかくという事が起こりやすくなります。
よって、治療は、心の火(熱)を取り去り、同時に陰を増やすツボ、今回は左の後溪というツボを中心に使用していきました。
(治療結果)
一回目の治療の後、身体の緊張が緩みましたと言われ、数回の治療で夜がよく眠れるようになってきました。心の火が冷まされると、眠れるようになります。すると徐々に、陰も補われて動悸もなくなってきました。
多忙時や緊張が強いとたまに寝付きが悪くなることがありますが、鍼灸の治療で直ぐに回復できるようになり、首が締め付けられるという症状もなくなりました。
(考察)
患者さんは、性格的に控えめで我慢強い方なので発散を上手くできずにバランスを崩されたのだと思います。
心の臓は、程よい陽気に支えられて精神活動を安定させています。上記のように、陰と陽のバランスがとれれば、体調も調い、それが精神面にも影響してきます。本来ご本人が持っておられる優しさと芯の強さがバランス良く発揮されますよう心から願っています。
川辺郡在住 女性 45歳
主訴:無月経
初診日:平成24年7月初旬
(現病歴)
40代頃から、寒い時期のみ生理が飛ぶようになる。数年後から更に5-6月など季節の変わり目も飛ぶようになり、生理が来たときは5日目に経血量が多くそれ以外は少量。ホットフラッシュ等更年期の症状が出始める。昨年の秋頃、漢方薬の加味逍遙散と当帰ベースの煎じ役薬を処方してもらい半年後に生理が飛ばなくなったものの定期的には来ない。
去年の夏に生理がきて以来再び来なくなる。漢方のお医者さんが遠方の為漢方を中止してからホッとフラッシュが更に酷くなる。
血液検査の結果、若干ホルモンの数値は低い。
(その他の情報)
・最近夜中にトイレに行く回数が増えた。
・口内炎が出来やすい。
・アレルギーがある。(カニ・エビなど)
・白髪が増えた。
(特記すべき体表観察所見)
顔面診:額と頬が紅い。肝と腎の部分が色抜けている。
舌診:紅舌、白二苔(白い苔が張り付いている)、舌が紅い。
脈診:1息4至半、脈幅力とも有り、左尺位弱。
原穴診:虚:左太淵・太溪・太衝・照海。
実或虚中の実:右合谷・太衝・衝陽・後溪等。
腹診:左大巨、右脾墓から胃土、右肝之相火。
背候診:神道から筋縮まで圧痛、左肺兪~心兪・肝兪~三焦兪まで実、左志室虚。
(診断と治療方針)
肝鬱気滞~やや化火証(かんうつ)と腎虚証:
生理が止まった原因として、患者さんの仕事環境のストレスと、一度やりだすと止まらない徹底した性格の両面が、肝の昇発作用を過多にさせていること。(肝の蔵は本来、木が枝を伸び伸びと広げるように上下に成長していくものが、精神的圧迫によってそれが妨げられると肝気鬱血(うっけつ)という概念になる)
また、年齢的に腎の気が弱ってきた(夜中の尿、脈や腎のツボの状態などの体表観察からも推察される)ため、上部が実、下部が虚というアンバランスな状態となる。
よって、この肝気の上がりすぎと、下である腎の弱りが原因となって生理が来なくなったものと考えられる。
上に肝気が上がりすぎると、益々下にある腎気が空虚になり悪循環となるため、肝気を下げるツボ(太衝あるいは、百会)と下の腎気を補うツボ(照海)の両方を使用していく。
(治療結果)
7診目にはホットフラッシュが無くなり、10診目に生理が普通にきました。
45歳という年齢で、もう閉経と思うのはやや早すぎるように感じます。
生理が始まった年齢にもよりますが、気血のバランスがとれていれば、閉経の平均は53歳くらいです。
また、更年期障害の出方は人によって本当にまちまちで、50肩やホットフラッシュ、眩暈(めまい)耳鳴り、精神的にうつになる等々ありますが、そのような症状は無いに越したことはありません。
女性にとっても身体が大きく変化する更年期。だからこそ鍼灸治療をこの時期に始めることは必要で最適ではないかと思います。
時期がきて、たとえ生理が無くなったとしても、健康で益々ハツラツと人生をエンジョイする、そんな後半生を送っていくためにも鍼灸をはじめ、運動(特にウォーキング)や新しいことに興味を持ち、心身ともにバランスを保っていきたいものです。
神戸市在住 63歳 女性
主訴:膝痛
初診日:平成24年5月初旬
(主訴について)
2ヶ月前から右の内膝痛が起こり腫れて重だるく曲がらなくなった。正座も不可。ホームを走った時、ぐねって立ってられなくなり整形へ行く。膝の水を27cc抜くも不変。2回のヒヤルロン酸注射するも不変。注射後右の大腿部が怠くなる。
歩くと膝が腫れてくる。ロキソニン薬を2回使用するが2~3時間で効果は無くなるため、友人の紹介にて来院される。
(既往歴)
9歳ごろ小児喘息になるが、麻疹で鼻血が多量にでてから喘息が治る。働き出してから飲酒の翌日に身体全体に痒みの酷い湿疹が出るようになる。
結婚してからは油物をよく食しチョコが大好きで現在も多く食べてしまう。
30代の時、風邪薬を服用して急性肝炎になる。50代は母親の介護に疲れ一過性の脳梗塞に。現在の仕事場は一年中寒い所で気も使う。60代に回転性のめまいに襲われたことがある。
(その他の特記すべき問診)
・環境の変化で便秘する。
・目が乾燥してかすむ。
・運動後は身体がスッキリする。
(特記すべき体表観察)
・舌診:紅色、舌尖紅、中央部が乾燥して剥げている、右の舌辺の剥げ、力は入る。
・脈力:有力、幅有り。
・原穴診:左後溪穴、右太淵穴、右太衝穴、右丘墟穴反応有り。
・背候診:右厥陰兪・心兪、左胆兪~胃兪、神道、脊柱、志室反応あり。
・腹診:心下、胃土、右肝相火反応有り。
(診断と治療方針)
麻疹で鼻血が多量にでてから喘息が治った事や、飲酒の翌日に身体全体に痒みの酷い湿疹が出る事、舌の先の赤さなどから身体に熱を篭らせている状態にある所、職場の寒さなどから肌表が閉じ熱が身体の内に篭っている状態と思われる。そこへチョコレートの過食やストレスなどで胃に負担をかけてしまい、それが脾経の経筋に影響し膝痛になったものと考えた。膝に水が溜まるのは膝が熱化しているため、その熱を冷まそうと水が集まっている姿なので、水を抜くのではなく炎症を抑える治療が必要と思われる。
治療方針として、初診時と2回目は後溪穴に置鍼。3診目から百会穴の置鍼と第2?兌穴からの刺絡を3診継続。その後百会穴に治療。
(効果判定)
1診目の治療にて楽になりよく眠れるようになる。4診目で痛みが10から5に減る。9診目で腫れが略引いてくる。その後旅行で歩きすぎたため、膝痛再発するも、治療度ごとに回復する。現在24診目。腫れも熱感も消失し改善される。
(考察)
初診時はかなりの腫れと熱感が膝にありましたが、どんどん改善されていきました。膝痛の原因を探っていくことが如何に重要な事でしょうか。
患者さんは様々な病気をされてますが、小さい頃、麻疹で鼻血を大量に出したことを機に喘息が改善されています。喘息にも様々な原因がありますが、この事は鼻血が身体の中の熱を取り除いたためと考えます。よって喘息時の痰は黄色で粘っていたのでは等々推測もできるのです。(東洋医学では、便、尿、汗、痰等の排泄物に色や臭いがあるものは熱と考えます)
膝も熱化していたため、その熱を冷ますために水が集まってきたのでしょう。ですから、その水をいくら抜いてもダメで、熱化の原因を叩かないと治らないのです。
また、患者さんは、とても鍼灸を信じて受けてくださっていた事も早い改善につながったのではと思います。まだ、今までの生活習慣による体質改善が必要ですし、正座も難しいようですので治療を継続してくださっています。
これからも益々お元気で充実の人生を楽しんで頂きたいと心から願っています。
京都市在住 4ヶ月 男子
主訴:アトピー性皮膚炎
初診日:平成24年4月
(主訴について)
生後2ヵ月半頃から顔全体が赤く変化し始め、最初に両頬、頚や体幹、足に赤みと痒みが広がる。肌汁も出る。非ステロイド系の軟膏も亜鉛軟膏も脇以外は効果無し。
(経歴)
今まで1日2回~3回出ていた便が、生後40日目以降には1回になる。母親はお餅やチョコが好きでよく食していた。
3ヶ月半~小児科で母乳を止めるように言われミルクにする。(母乳もあまり出なかった)
アトピーが出始めてから便の色が黄色から緑色に変わる。臭いの変化は無し。ステロイドを朝夕1週間全身に塗りその後綺麗になったので夕方のみにした。痒くて引っ掻くため手にミトンを常時着用している状態。
(その他の所見)
・室内を湿熱にしたり、入浴時間を長くすると悪化する。その反対は緩和する。
・足が冷で頭が熱感。
(診断と治療方針)
便の色の変化と臭いは身体の中の湿熱によるためで、それゆえ粘っとした黄色い肌汁が出たりする。
便の回数も減ったため更に内に湿熱が篭った状態になり悪化したものと思われる。
頭が熱くて足が冷えている状態も寒熱が上下逆転しているためで、顔や手に酷くアトピーが出る事に合致している。
乳児なので鍼は刺さず、古代鍼の接触針にて、上部の湿熱を取るような治療とする。
また、ツボの状態から脾胃の弱りもアトピーに影響していると考え、脾胃のツボを補いながら肝の昂りを抑えるような治療方針とする。
(治療配穴)
百会に銀の古代鍼にて接触、右太白を金の古代鍼にて補う。背候部の肝脾中心に散鍼を施す。
(治療効果)
治療初めは一進一退だったのが、9診目頃から顕著に効果が現れ、便通も1日2回出る等、湿熱が徐々に取れてくる。現在18診目。アトピーの影は全くなく真っ白の肌になり落ち着いている。(下記写真参照)ステロイドは完全に使用無し。
(考察)
手に痛々しくミトンを巻かれていたのが嘘のようです。最高に綺麗なお肌になりました。お母さんも共に治療をされ心身共にたくましくなっていかれてるのを感じます。
また、遠方なのでご主人が毎回送ってくださり、治療中も待っていて下さり心から感謝しています。ご家族の協力あっての回復だと思います。
今の肌を見たら本当に綺麗なのですが、それだけでなく、赤ちゃんなのに何か風格さえ感じられる程です。
夜もぐっすり寝てくれているようで落ち着いてます。
私に向けてくれる笑顔は、鍼大好きって言ってくれているようでこちらの心が緩んで元気になってきます。
ご家族共に信頼をしてくださり感謝しています。
治療前
治療後
主訴:夜尿症
西宮市在住 10歳 男子
初診日:平成24年3月初旬
(経過)
夜尿は生まれてから毎日で、夜尿しなかった日は一日もない。
2歳時、保育園で高い所から飛び降りた時、右足指複雑骨折。落ち着きがなく常に動き回っているらしい。先天性弱視、乾燥肌、便秘気味。8歳で名古屋に引っ越してきてからアトピー発症する。
自然学校もあるため夜尿症を治したいとHPにて来院される。
(特記すべき問診)
飲食:大食で間食有り。口の渇き有り、冷飲好む。
二便:2日に1行。臭いキツイ。尿は1日5回、尿切れ悪い。
汗:多く、特に額にかく。寝汗も有り。
手足冷える、寒がり。
(特記すべき体表観察)
舌診:暗い赤で、白い苔がべっとり付着。
原穴診:右神門、太白虚。右太衝熱感。左太溪虚。
背候診:督脈上の圧痛は身柱・筋縮・中枢・懸枢。左肝兪熱実、右心兪実。
腹診:右脾募、両肝之相火キツイ邪。
(診断)
アトピー、口の渇き、便秘、便の臭いがキツイ、汗が額に多い、ツボの熱感等等、これらは全て身体の中に熱をこもらせているためと考える。
手足が冷たいのは、ツボの状況から身体の中に熱がこもって、手足末端まで陽気がめぐっていない為と思われる。
この夜間尿は、肝気の昂りが相対的に腎の気を弱らせている為であると考え、肝気の昂りを緩和する治療とする。肝之相火(両方の脇)が、非常に硬く緩みがないため、ここが緩んでくる事を治療の目安とする。
(治療方法)
初診日:鍼を使用せず、打診(両脾募)と古代鍼(百会)にて治療。
3診目以降:外関穴に置鍼し(アトピー治療のひとつ)、古代鍼にて背中を散鍼。
9診目~現在まで:百会穴に5番鍼にて置鍼すること10分。
(効果判定)
本人の性格や鍼を怖がっているという事もあり、初めは鍼を使用しないで治療を開始。徐々に鍼を使用して百会穴に置鍼できるようになる。
百会を使用してから3回目で、尿の量が減少。6回目に初めて夜尿をしない日が出る。(家族中大喜び)現在、6月6日来院時点で10日間連続して夜間尿がなくなった。
(考察)
今まで10年間夜間尿をしない日が無かった子が、今は嘘のように改善されました。それも、治療を始めてから12診目に効果が現れ、ご家族中がお祝騒ぎで喜ばれたようで、その様子が目に浮ぶようです。
夜尿が無くなってきたのは、やはり、肝之相火(両脇)の酷い張りが緩んできてからです。やはり、肝の昂りが原因であったと思われます。
本人は、中々置鍼中もじっとしていられず、お話ばかりしていたので、時に注意もしたりしましたが、お母さんと共に治りたい一心で来院して下さっています。本人も大変ですが、毎日お洗濯されるお母さんのご苦労はどれ程かと。
治療をしていくことで、夜間尿だけでなく普段からの肝の昂り過ぎを緩和し日常生活が益々円滑になっていくと思います。