西宮市在住 28才 女性
主訴:不妊症、冷え性、生理痛
初診日:平成23年1月下旬
(現病歴)
生理痛:高校になって運動をしなくなり、便秘や生理痛、更には偏頭痛などが出るようになる。偏頭痛は特に雨の降る前によく起こるようになる。食事も油物が好きでポテトチップスなどもよく食していた。生理痛は前日から1日目2日目がひどく、薬も効かない状態で学校や仕事も休むほど。生理前にイライラしやすくチョコレートなど甘いものが欲しくなる。
仕事はかなり多忙だった。
4年前に結婚し結婚後も仕事は継続している。
冷え性:1か月前に重いものを持ち上げようとしたとき、両腰に痛みが走り動けなくなる。整体やマッサージ、冷湿布などで治療するも1ヶ月かかった。その後も、長時間腰を曲げているときや、前かがみになると痛みがひどくなり完治はしていない。冷え性は最近自覚するようになり、両大腿部、右腰、下腹部などが特に冷える。
不妊症:結婚後、子供ができず婦人科を受診、特に問題はなかったためタイミング療法にて昨年初めて妊娠するが、5,6週目で流産となる。
(特記すべき体表観察)
脈診:尺位弱(妊娠に関係する脈、特に右側)
舌診:やや舌がはれぼったく、色があせているが力は入る。
原穴診:太谿両虚、左照海、左臨泣実など。
背候診:神道・霊台庄痛、右肝兪熱感、背中上部熱感、左腎兪虚、左胞盲冷え。
★上記の情報から、肝の昂りとともに腎の蔵の弱りが見られる。
(診断と治療方針)
生理痛は、運動をしなくなってから発症していることにより、気の停滞によって引き起こされたものと考える。気の停滞による生理痛の特徴は生理が始まってから前日~1、2日目に起こるのが特徴で、生理が終わったら比較的体がスッキリする。
冷え性は、左腎兪虚、左胞盲冷えや、脈診での尺位が弱いことからも腎の蔵の弱りと冷えが考えられるが、肝の昂りによって更に下半身である腎が相対的に弱っているのではと思われる。
この場合、生理痛と冷え性は不妊症と関係が深いため(肝と腎の関係)、生理痛と冷え性を治すことによって妊娠はできると思われる。
腎の冷えを取ることによって、肝気を引き下げ生理痛も良くしていく方法として、初回は胞盲(ほうこう)にアプローチする。
(配穴)
初診日から3診:胞盲に横刺 15分
4診目から13診目:後渓
14診目から17診目:百会
18診目から22診目:太衝
(治療効果)
初診後の治療から足が温かくなる日が出てきてよく眠れるようになった。治療から1回目の生理が7診目でくるが、前日の痛みはなかった。
2回目の生理が来ないため病院に行くと18診目で陽性反応がでる。
20診目で心拍が確認。27診目で子供もかなり成長し現在13週目で安定している。現在も治療継続中。
(考察)
妊娠されたことにも喜びと驚きでいっぱいだったと思いますが、1回目の妊娠で流産したこともあり、5~6週目を超えるのはかなりの不安が伴っていたことを察しました。
鍼で精神のバランスをも取りながら、肝と腎のバランスを調えるような治療をしていきました。
安産で生まれるまで治療をしていくことにより、出産も楽ですし子供さんも元気に生まれてきます。何より、お母さんの心身共の安定こそ子供に影響を及ぼします。素晴らしいご出産を共々に楽しみにしています。
阪南市在住 41歳 女性
主訴:痒み疾患(両頚、後頭部、右眉の上、両脇、上腕、骨盤等)
初診日:平成23年2月上旬
(現病歴)
若いころから口内炎ができやすい体質だった。26歳ごろストレス(仕事多忙)のため胃潰瘍になる。30歳過ぎてから便秘になり薬を服用し始める。またこのころ年齢とともに仕事へのプレッシャーも大きくなる。
そんな昨年2月上旬、両後頚あたりが赤くなっていたので市販の薬を購入。塗った後から赤く腫れあがってきた。皮膚科を受診し抗生物質を服用。薬で痒みは治まっていたものの、また10月ごろから後頭部の髪の生え際を中心に右目瞼の上、右側頭部がかゆく、皮がポロポロ落ちてくるようになる。2か月後には、両脇から両腕外側に小さいプツプツができ、両骨盤あたりにも同症状が発症したため、ステロイドを塗って抑える。ここ1~2年晩御飯の後、ケーキやチョコを食べたくなる。
(増悪因子):会社に行くと悪化する。夕方から夜にかけて特にかゆい。身体が温まるとかゆい。冬場乾燥時悪化する。
(緩解因子):家でホッとしたときはましになる。
(その他の問診事項)
・乗り物酔いをする。
・手足が冷える。(最近特に足が冷える)
・眩暈がする。
・胃が痛む。
・頭が痛い。
・肩がこるなど。
・運動はほとんどしていない。
・生理後に身体は軽くなる。
・生理前便秘し食欲も亢進する。
★上記の問診から気の停滞が上部にあることが考えられる。
(特記すべき体表観察)
・舌診:暗い赤から紫色、舌先赤い点々多数、舌辺が剥けている。
・脈診:1息4至、緩滑脈、尺位弱、脈力あり。
・原穴診:左合谷虚中実、左太衝虚中実、左衝陽実、左照海虚、右合谷虚中実、右神門やや虚。
・背候診:神道、霊台、八椎下、筋縮、中枢、脊中、命門圧痛。右肺兪から心兪虚中実、左肝兪から腎兪実で持ち上がり。
・腹診:右肝相火実、左脾募実。
★肝の気が停滞し熱化していることが舌診などからもうかがえる。
(診断と治療方針)
肝鬱化火(かんうつかか)証・内風(ないふう)証
痒み疾患は、東洋医学では熱の範疇に入る。
本来、胃が弱いところ、仕事でのプレッシャーから甘いものの過食、運動不足などが重なり、体の中に内熱という邪熱をこもらせてしまった。
そこへ寒さなどで毛穴が塞がれ、更に熱をこもらせる結果となり、肌表に邪熱が停滞し、かゆみが発症したものと考えた。これが冬など乾燥時期に
悪化した理由と思われる。比較的、頚から上にかゆみが酷いことから、肝の熱が上部を襲い、内風(ふう)を起こしたものと考える。(火が盛んになると風が起こるとされる)
(配穴)
初診日~4診目まで:合谷穴
5診目~9診目まで:百会穴
10診目~14診目まで:後渓穴
★4診目には痒みがましになり、かゆみが治まる日が出てきた。
★ストレスで甘いものの過食をしたり、生姜紅茶を飲んだ後は、かゆみが増す。
★13診目ごろ生理痛と生理不順が無くなっているとこにきずく。
★14診目で全く痒みもなくなり皮膚も綺麗になる。
(考察)
藤本蓮風氏の著書「経穴解説」(メディカルユーコン社)の中に、合谷というツボは肝鬱化火から生じた内風(ないふう)には文句なしに効果があると言われています。彼女も合谷というツボに明らかに反応が表われていたいたため、その効果が顕著にあらわれ短時間で改善されたものと思います。
その上、治療の中で、生理痛や生理不順も改善されました。これは、身体全体の気の巡りが良くなったためだと思います。
もともと色が白く肌理の細かい方ですので、肌は非常に敏感です。そのような人が、チョコや甘いものを食べ、ストレスが過多になると、身体に内熱を溜めてしまう結果となり、その熱が弱い皮膚を襲います。甘いものが非常に欲しくなったときは、身体がストレスを訴えているのだと自覚し、リラックスの時間を持つように心がけることが大事です。
これから夏になると発汗し内熱は取れ易くなりますので、少々甘いものを食べても大丈夫だと思いますが、あまり根を詰めないように気を付けてください。
阪南市在住 71歳 女性
主訴:脊髄梗塞後遺症による足の違和感
初診日:平成22年9月初旬
(現病歴)
3年前の朝、腰が抜ける程だるくなり目が覚める。みるみるうちに右腰から下腿にかけて急に冷えだし、力が入らず立てなくなり病院へ運ばれる。
脊髄梗塞との診断を受け点滴にてステロイド治療を開始する。
3週間で退院したものの退院後、高血圧とともに足のひどいほてりとチクチクとした痛み、重だるさ、締め付け感などが臀部から足の裏まで(後面と側面に)発症する。(右から左に徐々に移動)
その他足の冷えがひどく(特に左足)、尿量も減少し残尿感を伴うようになった。歩くのがつらく砂利の上を歩いている感じがする。
(増悪因子):雨天前、じっとしている時、エアコン、階段の下りなど。
(緩解因子):温泉。
(その他の症状)
・ふくらはぎが浮腫む
・冷え性(足、腰)
・小便の出が悪い、夜間尿がある。
・胸焼けする。
・口内炎ができやすい。
★上記の情報から上半身の熱、下半身の冷えが考えられる。
(特記すべき体表観察)
舌診:右方向へ歪斜、暗い赤色、薄い苔、舌縁の剥け、舌先赤い点々多数。
脈診:1息5至、弦脈、左関枯弦脈。
原穴診:虚:太白左、丘墟左、陽池左、太淵右、照海左。
実:太衝右、衝陽右
背候診:左肺兪から心兪実、右肝兪胆兪の熱、脾兪虚。右の腎兪冷え。
★上記の情報から肝胆の熱、腎の冷え、さらに胃腸の弱りが考えられる。
(診断と治療方針)
足の特に後面全体、裏面と外側面の違和感から腎膀胱経と肝胆経のバランスの乱れが考えられる。また、その他のツボの状況と、足の重だるさなどから「脾の臓の機能をアップ」をさせる治療方針を立てる。その後、肝と腎の上下のバランスの乱れを調え、足の痛みを取るように治療方針を立てる。脾の臓のアップは東洋医学では免疫力アップにも通じるほど重要で脾は五臓の中心と考えられている。患者さんの体表観察では脾兪右のみジトッと発汗しており、まずここのツボの調節を優先することとする。
東洋医学では、脾と腎は後天の元気と先天の元気に対応しており、肝と腎も上下のバランスを取るうえで外しては考えられない。
初診時から2診目:右脾兪
★2回の治療にて脾兪のツボの発汗が無くなり踵の痺れがましになる。
3診目から5診目:天枢
★少し足の状態がよくなってくる。
5診目から22診目:照海、百会
★肝と腎の上下のバランスを整える治療とするためツボを変更する。
★6回目の治療にてしびれは残っているものの足の痛みは時にましになる。歩きすぎたりするとまた痛み出すものの歩幅が広くなり早く歩けるようになる。
23診目から以降:後渓穴を使用。
★21診目には足が暖かくなってくる。27診目には自分でも足の暖かさが自覚できるようになる。
★現在、走ったり長い時間歩いたりできるようになる。治療継続中。
(考察)
遠方から治療に頑張って通われたことにまず敬意を表したいと思います。ご家族の理解があってこそと感謝します。
主訴が発症してから数年が経っているため、時間はある程度かかると思っていましたが、回復していくスピードは非常に速かったと思います。
まず免疫機能である脾を立て、その次に肝と腎のバランスを調えたことで治療効果が早く出たのではと思われます。
このような、後遺症的な疾患で痺れなどは、西洋医学でも薬が無く、かなりの時間がかかる事は周知の事実です。
来院されるたびに歩き方が良くなっていかれました。つい無理をして歩きすぎたり、また食べ過ぎたりして、胃腸である脾を痛めると痛みがまたでることは十分考えられます。
また、足の裏には腎臓の出発のツボがあります。ここに反応があることからも塩分の取り過ぎには気を付けていただき、治療を継続されますことを望みます。
西宮市在住 男性 55歳 管理職
主訴:肺がん(右下部)による咳と左肩甲骨激痛。
初診日:平成22年11月初旬
(現病歴)
4年前、大阪に転勤になってから毎年10月から3月までの期間咳が出るようになり、検査を受けるが毎回異常なし。
55歳の今年1月は、咳に加え左肩甲骨辺りの激痛が続き検査するがやはり原因不明といわれる。
4月病院を変え再検査。結果、肺がん(ステージ3b)といわれ、リンパにも転移が見られた。休職し6月から抗がん剤治療に入る。1クール3週間の抗がん剤で激しい嘔吐、白血球低下、体重10キロ減少、嘔吐のため逆流性食道炎などの副作用が激しく食欲が全くなくなり点滴にて栄養剤を入れる。
更に咳止めの薬を服用してから頻尿になり現在も同症状継続。(夜間尿4回、昼13回以上)
10月初旬、CT検査にてガンは大きくなっていたため11月から抗がん剤再開予定だが、体力、気力ともになくなり鍼灸院に来院される。
(その他の症状)
・頭、首、肩、背中が痛むため、上向けに寝れない。右横にして寝る。
・一日中ゲップが出る。
・黄色い痰が出る。
・胸が苦しい。
・眩暈がする。
・雨の日に身体が重くなる。
・よく便秘になる。
・胃がもたれたり張ったりする。
・扁桃腺をよく腫らしていた。
(その他の特記すべき問診事項)
食事:ガンになるまでは、油物、キムチなどが好きだった。チョコなども食べたくなる。
飲酒:普段から強いほうでは無かったが、大阪に転勤してから仕事上飲み会が多かった。
二便:仕事をし出してから便秘。3日間出ないと薬を服用。臭いきつい。兎糞状。尿は勢い切れ共悪い。
運動:社会人になってから多忙のため運動をしなくなったが、最近はウォーキング20~30分出来るようになる。
入浴:41℃10分間湯舟につかり、すっきりして疲労感は取れる。のぼせない。
環境:自宅が線路沿いで窓も開けられないほど空気が悪い。
(特記すべき体表観察)
望診:痩、心・肝が白く抜けている、顏色は黄色。
舌診:紅舌でやや色が褪せている、白い苔、舌先赤い点点、舌の縁苔が無し。
脈診:1息5至、緩滑枯脈、寸口関口右とも弱、2指押し切れる
原穴診:虚:左太白・太谿・丘墟、虚中の実:左太衝・衝陽
実:右合谷、左臨泣、左列缺(熱感)
腹診:左脾募、右肝相火、胃土。
背候診:筋縮、右肺兪(虚)、左肺兪(熱)、両心兪、督兪から胆兪(左)実熱、背中上部薬疹多数。
(診断と治療方針)
東洋医学において、ガンの形成は極めて複雑としながらもその原因を、北辰会では、★肝鬱気滞(かんうつきたい)★瘀血(おけつ)★湿痰(しったん)★邪熱(じゃねつ)の4つが結びつき塊(ガン)を成すとしている。また、これらの4つを結び付ける接着剤のような役割をしているのは肝鬱気滞と言われている。(藤本蓮風著「鍼灸医学における実践から理論へ」より)上記の患者さんの情報からこれらを説明すると。
★肝鬱気滞→仕事などのストレスによる過度の緊張などの精神的刺激により、気の動きが停滞している状態。気と共に血の流れも悪くなる。自覚症状としては肩こり・頭痛・便秘などになる。
★瘀血→気血の流れが悪い状態が長引くと、気血が弱い場所(患者さんにおいては肺)に停滞しそこに塊を形成する。
★湿痰→飲酒、油物、刺激物の摂取過多を含む食事の不摂生により、身体の中に痰が形成。胃腸の動きが悪くなり胃もたれやゲップなどがひどくなる。
★邪熱→子どもの頃から発熱しやすく扁桃腺を腫らし易いなど熱体質であることや、ストレス、酸性食品摂取過多により身体の中が熱化しやすい状態になり邪熱という形となる。
更に、ガンの発生は、正虚邪実(せいきょじゃじつ)といい、何らかの原因で「正気=生命力・抵抗力」が低下し非常に疲れやすくなっている所へ(正虚=正気の虚(弱り))、上記の様な気滞・瘀血・湿痰・邪熱などの邪実(邪気の実(過剰))が侵襲し、ガンを発病させる。肺にガンが発生した事は、よく風邪を引いたりするなど元々「肺経」が弱いところに喫煙などで更に肺を痛めたためではないかと考える。
(治療方針)
初診:列缺(左)2番鍼 10分置鍼
2診目~16診目:後溪穴 2番 20分から30分置鍼
17診目~19診目:照海穴 2番 25分置鍼
20診目~24診目:後溪穴 2番 30分置鍼
25診目~26診目:太衝穴 2番 30分置鍼
現在34診目治療継続中。
★3診目には咳はかなりましになる。抗がん剤治療後食欲は無いが食べれた。嘔吐なし。
★5診目にはよく眠れて食欲も有り。散歩20分後疲労感なし。咳は殆ど出なくなる。
★6診目にはほとんど背中の痛みは無くなり上をむいて眠れるようになる。抗がん剤を打つと便秘になる。
★8診目体重変化なし。(48キロ)食欲あり。膝ががくがくする。歩くと息切れ。
★14診目抗がん剤後も白血球は下がらず。腫瘍マーカーは減少。30分散歩しても疲労感なし。
★19診目毎日排便あり。体重が少しずつ増えてくる。
★25診目には体重が増えてくる。体調すこぶる良し。腫瘍マーカーが正常になる。
(考察)
初めてお顔を拝見した時は、ガン特有の顏色と痩せ方に愕然としましたが、脈力や舌の状虚をみて正気(生命力・抵抗力)は、まだあると確信しました。しかし、抗がん剤治療でかなり正気が弱らせていたため、かなり慎重に治療を進めていきました。
正気の弱りの度合いを示すものとして、脈、舌、顔面診と共に、北辰会では入浴後や運動後疲れるかどうかを重要視していきます。
ガンは明らかに邪熱です。熱が主体なのです。ツボの熱感を診ればあきらかです。患部やツボを手で触ればすぐに感じることです。恐いのはその熱が血を蒸して貧血状態にしたり、また血絡を傷り出血させたりしますので、血虚の状態を慎重に診ていきます。
西洋医学では、白血球の状態や貧血の状態を検査しますが、北辰会方式では舌診等からそれらの状態はかなり正確に把握できるまでになってきています。
患者さんは鍼灸治療をされてから、抗がん剤治療を継続されても食欲はあり、歩く事30分も疲労感無くどんどんお元気になっていかれるのが目に見えて分かりました。
現在は腫瘍マーカーは正常値になり、6クールの抗がん剤治療も無事終了し、ガンは検査においても完治されました。
師匠藤本蓮風先生からも何度かご指導をいただきました。先生は、現在も数多くのがん患者さんの治療に携わっておられ、かなりの成果を出されています。
先生は常に、大事なのは正気が十分であるかどうかが決め手なのだといわれます。正気の状況が今だ邪気と充分に戦える状況にあるかどうか。
たとえ西洋医学の診断が深刻であったとしても、正気の衰弱がひどくなく、邪気に充分戦いを挑む事が可能であれば回復するといわれています。
正気が弱っているところにドンドン容赦なく抗がん剤などの化学療法で治療をすることは、更に抵抗力を弱め、実はガンの増殖を早めてしまうことを知っていただきたいです。ガンのみを主体にするのではなく、こちらの正気の有無そして心身全体の人間を主体にした治療法が重要だと感じます。
西宮市在住 女性 30歳 公務員
主訴:むち打ち症
初診日:平成22年10月下旬
(現病歴)
6年前に交通事故を起こし、交通事故の翌日から両首~両肩にかけての閉塞感が発症。
息苦しさを伴い、ひどい時は頭痛も起こるようになった。事故での出血はなかった。
レントゲンにて頚の骨がずれていることが分かり、レーザー治療やマッサージなど2年間続けるが少しの変化しか見られなかった。横になり首に負担がかからないようにしている時が少し楽だったものの、仕事で身体を動かす事は困難だった。好きだったダンスなども全く出来なくなった上、10月、11月は事故を思い出し精神的にもきつく不安感もでる。
事故後、生理痛がひどくなり、仕事を頑張りすぎると手が震えるなどの症状がでたため、安定剤を1ヶ月服用する。最近は、休日になると疲れが増し、一日外出もできず動きたくない。
(その他の問診事項)
・生理前はしんどくなる。
・チョコやスナックなどを食すとホッとする。
・色つきの夢をよく見る。
・最近寝付きが悪くなった。
(特記すべき体表観察)
舌診:淡紅色(淡い赤色)、白厚膩苔(白く厚い苔がべったりと付いている)、舌に力入る。
顔面診:心、肝、腎の白抜け。
脈診:1息4至、緩滑枯、脈の力有り、右尺位虚。
原穴診:左神門虚、左太衝・衝陽・臨泣実、右太衝虚中実。
背候診:左心兪実熱、神道・筋縮実、肝兪実。
腹診:左脾募、右肝相火、胃土実。
★以上の情報から、心(熱)と肝(肝血不足)のバランスの乱れが考えられる。
(治療方針と選穴理由)
交通事故でのむち打ちは、打撲により気血の流れを悪くするだけでなく、出血が無いため血液が欝滞(うったい)し、瘀血(おけつ)という病理産物を形成する。
上記の体表観察においても、太衝や臨泣などの反応や舌の色褪せの状態から瘀血(血液の流れが悪くなってできる血の塊)が考えられる。
瘀血の形成とともに、日頃からのストレスや事故によるストレスが重なり、頚肩などの上部において詰り感が発症したものと考えた。(ストレスによって肝気が上昇するため上部に発症)。更に気血の流れの悪さが長引き、心の臓にまで影響を及ぼし不眠や不安感が出てきたものと考える。
治療は、頚肩を中心とした上部の気血のめぐりを良くするとともに、心神の安定を図るため、心兪穴を選穴する。
(治療経過)
証:気滞血瘀証(きたいけつお)>心肝気鬱証(しんかんきうつ)
1診目~2診目:心兪(左)10分置鍼。
3診目~5診目:後溪(右)20分置鍼。
6診目~13診目:心兪(左)25分置鍼。
14診目~16診目:太衝(右)25分置鍼。
その後も、心兪、後溪、太衝のどれか1穴を選穴し治療を継続。
★初診治療後3日間、頚肩の閉塞感がましになる。鍼治療を始めてから体調のいい日が出てくるようになった。
★仕事でのストレスなどで一進一退するも29診目ごろには、今まで無かった高温期が出てくるようになった。38診目ごろには睡眠状態もかなり改善される。現在48診目で6年ぶりにダンスも出来るようになり精神的にも安定するようになった。
(考察)
6年間、本当に様々な辛い思いをされながらむち打ち症と向き合ってこられたと思います。
むち打ちは、上記に述べたように気と血の流れを突然悪くするため、痛みや痺れだけではなく、精神的な不安感やうつ症状も伴う事が非常に多く見られます。
事故当時のショックによるトラウマや誰にも分かってもらえない辛さなどによって、それらは増悪します。彼女は、こつこつと治療に通われ、日に日に改善されていくのが見ていてもよく分かりました。
普通より舌の色の赤味が褪せていた為、貧血状態も考えましたが、治療後には舌の色に赤味が戻るため、やはり血の流れが滞っていたため舌の色が褪せていたのだと考えました。
痛みなどで身体を動かす事が出来なかった事と、事故から時間がかなり経過していた事から、気血の流れの改善には少し時間がかかりましたが、現在、ダンスができるようになったことで、更に改善のスピードはアップし、事故前よりお元気になられると確信します。事故がきっかけではありましたが心身ともの健康を鍼灸治療によって益々勝ち取って頂きたいです。