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実千代鍼灸院 Michiyo Acupuncture Clinic

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症例

2011年2月7日(月)

アトピー性皮膚炎 []

東灘区在住 40歳
主訴:アトピー性皮膚炎
初診日:平成20年9月下旬

(現病歴)
14才時から十二指腸潰瘍を繰り返していたが、30歳のころピロリ菌を除去してから潰瘍は起こらなくなった。
しかし、その後アトピーが発症し、手とまぶたの上に赤みと痒みが出たり引っ込んだりするようになる。
ステロイドで落ち着いていたが、昨年7月から顏を中心に悪化。その前年には子宮筋腫の手術を受ける。アトピーの状態は、顏が腫れあがる程かゆく少し肌汁も出るため、今年2月ごろまでの半年間はステロイドを多量に使用する。2月以降はステロイドを中止し、漢方藥の消風散を服用。胃が悪い時にはアトピーが悪化するように感じるとのこと。現在は、顏、頚、手、腰に出ている。共に胃がむかむかして食欲が減退している。

(増悪因子)湿気の多い時、梅雨、ストレスによる過食時(胃の調子が悪い時)。
(緩解因子)晴天時。

(その他の問診事項)
二便の状況:軟便、尿1日4回。
飲食:温飲を好む、油もの・甘い物を好む。
生理の状況:1年前から量が減少、生理前の過食・イライラ・便秘・ため息多。
最近入浴時間10分で疲労感。

(特記すべき体表観察)
舌診:舌先が剥けてツルツル(やや左前方)、紅色、苔が厚い、湿潤、やや力無し。
脉診:弦・滑脈。
腹診:心下・脾募の邪
ツボの状態:脾兪、太衝
血虚(貧血)の状態:眼瞼結膜の淡白、耳介淡白・爪甲淡白・爪縦筋有り。

(診断と治療方針)
証:肝鬱化火~生風証、脾虚証

14歳から繰り返す十二指腸潰瘍など、元来胃腸が弱い(太れない)上、ストレスで肝気を更に高ぶらせ(生理前の便秘、過食、イライラ)たことにより、肝気が脾胃を押さえ、更に脾胃を弱らせている状態といえる。
散歩や入浴により疲労感が増すこと(虚)や、雨天時にだるくなること・軟便・舌の苔の厚さ(湿)やツボの状態、更に、血虚(貧血)(虚)等からも虚(弱り)と実(湿の過剰)などは察知できる。

胃がもたれるとアトピーが悪化するとの本人の訴えは、胃腸が弱いところ、食べ物が湿熱に傾くものばかり(油もの、ラーメン、ポテトチップスなど身体に入ると酸性になり湿熱邪に変化するものを好む)を摂取している為だと考える。

アトピー性皮膚炎など病名に「炎」のつくものは、熱証の疾患のため、酸性食品の摂取は病状を悪化させる。顏を中心に腫れあがる状況は、熱が上へ上がり、風をおこした状態(陽炎のようなもの)に発展したものと思われる。
しかし、痒み自体は激しくないことや、舌の潤い、白い苔が多い、温飲を欲する等を見れば熱の度合いはひどくなく、湿が勝っている状態と言える。よって身体の熱を除去しながらも脾胃の弱りを意識して治療をすすめる。

(治療配穴と結果)
1診目~19診目まで:肝兪+外関、太白或太衝:初回の治療後風邪を引く。
20診目~26診目まで:後谿、三陰交。
27診目~:脊中か中枢、と必要ならば外関(中枢、脊中の外側に大きな黒ずみあり、またひどい圧痛もあり)
50診目~:再び肝兪か後溪に戻す。脊中、中枢の圧痛が無くなったため。

週1回の治療により、アトピーは半年で完治。現在も治療継続中。
★全くアトピーが出なくなり、アトピー痕(背中の黒ずみ)も完全に綺麗になったのは60診目ごろから。(下記写真)
★治療後はかなり眠くなるため置鍼時間は、10分~20分以内。

(養生指導)無理をしないで早く寝ること、油ものを控える、ゆっくり散歩すること。

(考察)
様々示唆に飛んだ症例といえます。鍼治療の後、非常に眠くなり、更に1診目は治療直後に風邪を引かれました。
これは、鍼により肝気が緩み寒邪(風邪)が入ったのではないかと考えます。緊張している時は風邪は引きにくいですが、ホッとして緊張が緩むと一気に風邪を引いたりするようなものです。
このような時は、肝気を一気に緩めるような治療を避け、鍼を置く時間を短くしたり、外関穴などの風邪の時に用いるツボを同時に使用するなどして加減を考えました。この事からも彼女がいかに普段から緊張状態にあるか(あったか)という事もわかります。

緊張などで肝気を高ぶらせれば、脾胃の弱りに即影響を与えます。そこへ食事は上記のように油物が多いとなれば、身体の中に湿熱を溜め込み炎症性の疾患にかかるのは簡単なことです。

熱は陽邪、湿は陰邪で、この両者は結びつきやすく湿熱という形をとります。この湿熱の体質こそ炎症や膿などの疾患を生じさせ、病を難治にしていきます。

北辰会代表、藤本蓮風先生は、著書「鍼灸医学における実践から理論へパート3」の中で、「肝と脾のアンバランス、いわゆる肝気が高ぶることによって、脾気が抑えられます。これによって、胃の気が弱ってくるわけです。これが邪気の発生を大いに促してきます。・・・そこへ持ってきて、飲食、勞倦(疲労)がやはり脾を傷めるのです。」と言われているとおりです。鍼灸治療の継続により、顏色をはじめ、肌の弾力など見違えるようにお元気になられ心から嬉しく思います。


平成22年11月撮影


同左撮影

2011年2月2日(水)

ぎっくり腰 []

大阪市在住 39歳 女性
主訴:ぎっくり腰
初診日:平成23年1月15日

(現病歴)
20年以上前からスポーツとしてボウリングをはじめ冬になるといつも腰痛を起こしていた。ここ10年はボーリングは遊び程度で、卓球の方をよくしている。
昨年12月30日に京都の実家にて卓球とボーリングを楽しんだが、かなり冷えをきつく感じた。2日後の年明け元旦から腰痛になり、屈曲も伸ばす事も出来ず、靴下も自分ではけなくなった。
1月4日大きな病院にて検査を受けるが、異常なしで痛み止めの薬を処方される。
次の日、近所の整骨院でマッサージとテーピング治療を4日間受けるが痛みは変化無し。
京都の鍼灸院にて局所鍼を受け更に悪化したため、また違う病院に行くが先生の説明も不十分でご主人が半喧嘩状態になり病院を後にする。
痛む場所は両腰から臀部(左)にかけての激痛。右の背中から腰にかけて熱感があり腫れ上がっている。動き始めが特に痛む、冷湿布で少しましになる。

(その他の問診事項)
・生理情報:生理痛2日目(服薬)、生理前の過食と便秘、 生理中下痢の時有り。
・口の渇き有り、冷飲好む。
・試合や発表前は下痢、旅行時は便秘。
・出産で生理痛がましになった。

(特記すべき体表観察)
舌診:淡い赤、やや乾燥、白い苔、舌の震え、舌先赤い点々多数。
脈診:1息4至、渋脈、右尺位弱。
腹診:右脾募、右肝の相火実。
ツボ診:右肝兪から三焦兪熱感と実、太衝左実。

(診断と治療方針)
証:腎陽虚証、肝気上逆証

下焦(腰から下)が冷えた事によって、普段から高ぶっている肝気(感情の起伏が激しい)が更に高ぶり、上下のバランスを大きく崩し発症した腰痛と考えた。痛む腰は腫れあがり熱感がきつかったのは、鍼治療などで局所を触ったためと思われる。炎症を起こしている状態で、鍼を刺せば当然悪化する。
様々な治療を施す中、痛みが緩和されず更に肝気を昂ぶらせ悪化したものと考える。(痛みや動けない事自体大きなストレスになるため)

治療は、足が氷のように冷えていたため、下を暖め、上に上がった気を下げるという治療方針とした。

(選穴と治療効果)
1診目~5診目まで:後溪穴の鍼と両復溜のお灸(両方が同じ熱さになるまですえる)
6診目~7診目:百会

1回の治療で歩く時の痛みがましになる。背中の腫れも少し緩和される。
2診目でかなり良くなったため無理をしまた悪化。
4診目で身体はまっすぐに伸びた。
7診目には殆ど痛みが無くなり治療を一旦は終了する。

(考察)
はじめ来院された時は本当にひどい状態で、ベットに横にもなれませんでしたが、みるみるうちに良くなり曲がった腰も伸びました。痛い場所は手で診察のために触れただけで鍼は一切していません。よく痛い場所に鍼をされて悪化し来院される患者さんが多く見られます。炎症を起こしているところに鍼をしたら悪化は当然です。

どこから来た痛みなのか、熱性のものなのか寒性なのかの判断や、本人の身体の状態を、舌、腹部、背中、各ツボなどの情報から多面的に組み合わせて診断すれば確実に良くなっていくのが北辰会の鍼灸治療です。

病の発症時の原因(重いものを持ち上げたことが切っ掛け等等)は様々ですが、ご本人の性格から生じる生活習慣が病に大きく関与しますので、普段から感情が高ぶり易い人は、また弱い腰に来る可能性が大きいです。
今は、息子さんも治療に連れて来られていますので、油断せず治療を継続される事を望みます。
ともかく鍼灸の素晴らしさを実感していただき心から嬉しく思います。

2011年1月25日(火)

子どもの卵巣膿腫 []

主訴:子どもの卵巣脳腫
大阪市在住 2歳11ヶ月 女子
初診日:平成23年1月8日

(現病歴)
昨年11月下旬、保育園の内科検診で両乳腺肥大が見つかる。その後、10日間にわたり不正出血が続く。(生理様のさらっとした血で少し下着に付く程度)
出血は一度は止まったが、再び2~3日間また出血しだす。それ以降は起こっていない。
大学病院にて検査をした結果、6センチ大の卵巣脳腫(左側)が見つかり、即入院となり手術を待つ事に。
しかし、手術前に、母親の風邪がうつり38度発熱(2日間で解熱)し、手術は12月22日まで延期となる。手術直前になり、今度は院内でウイルスに感染し、下痢・嘔吐のため手術は今年1月下旬まで再度延期となったため鍼灸院に来られる。

母親がこの娘さんを妊娠中、母親の左卵巣が5センチまで大きくなり、仕事を2週間休む。妊娠中期には卵巣の腫れが治まったため仕事に復帰し、出産2ヶ月前まで仕事を継続する。治療は何もしなかった。

(その他の問診事項)
・1歳から保育園に通う。5歳の姉の2人姉妹。
・食事は野菜も食べるが比較的肉食を好む。甘いものも大好き。
・口の渇き有り。
・赤ちゃんの時はおとなしい子でカンも高くなかった。
・湿疹が背中の上部と膝の裏にできる。

(特記すべき体表観察)
望診:顔面は全体的に白と青。(特に眉間の間)
舌診:暗い紅色、白膩苔、舌腹の舌下静脈怒張大。
脈診:滑脈。
背候診:左心兪~脾兪まで実、右肺兪、腎兪虚、命門の熱感、左膏肓あたりにかさぶた有り、背中の上部に赤い発疹多数。
腹診:左大巨実、右肝の相火実。
その他:手足湿熱。

(診断と治療方針)
肝鬱化火(本人の肝の高さと母親のストレスを感受)の熱邪と湿邪(肉食と甘いもの)が結び、湿熱邪となり下焦(卵巣)に下注し、卵巣膿腫となったと考える。
「熱邪」+「湿邪」=「湿熱邪」

(治療方法)
1診目~5診目:古代銀鍼(北辰会が開発した刺さない接触するだけの鍼)を使用。
百会・十井穴(手の爪の際のツボ)・背候診・命門に接触鍼を1日おきにする。

(治療結果)
1回目の治療の後、発熱(38度)し、次の日に解熱する。2日後、腹部に赤い輪っかのような跡(4,5センチ大)ができる。
2診目の治療で背中の赤味や発疹がほとんど無くなる。
3診目の治療時には腹部の輪っかの跡は消失。

5回の治療後、1月下旬の検査の結果、卵巣嚢腫は消えていたため手術は中止となる。
本人の舌の赤みと苔が薄くなり、青白い顔に赤みがさす。→これは、湿熱邪が減少したことを示す。

(考察)
たった5回の治療で卵巣嚢腫が本当に消失したのかどうか考えてみたい。
まず、顔の青白さ(肝気が高い)や接した時の感じから、人一倍、神経質で肝のきついお子さんではないかとの印象を受けました。
入院経験のあるお子さんは、特に何をされるかに敏感のため、ゆっくりと体表観察が出来ませんでしたが、鍼が痛くないことが分かると自ら手や背中を出してくれるようになりました。

体表観察で注目したことは、身体の中の熱の度合いです。舌の赤さ、背中の熱感、特に背中上部と命門(腰の中央のツボ)の熱感はきつく、この熱邪が卵巣で湿邪と結ばれ塊(膿腫)となったのではと予測してみました。
食事からも、油物、甘いものが多く体質的にも湿熱邪が発生し易い状態にあったと思われます。
1回目の治療後に、発熱しその後、腹部に赤い輪っか(4センチ大)が現れたことは身体の中に潜んでいた熱邪が浮いてきた可能性があると思われます。
実際、数回の治療後にはその赤い輪っかも背中上部の赤みも消失していました。

また、特記すべき事は、お母さんが妊娠中に同じく左の卵巣が腫れていたことです。全く不思議な偶然のように思えますが、子供とお母さんの関係は、こちらが考える以上に深く密接につながっていると思えば、納得ができます。
非常に勘の鋭いお子さんであればある程考えられることです。私の考えでは、忙しいお母さんの心(魂)を深く心配し、その心をそのまま感受したため、全く同じ左側に同じ病を発生させたのかもしれないと思いました。
このように敏感な反応を示すお子さんですから、今後は、肝気、肺気ともに過多になり過ぎないように鍼灸治療を継続していくことと、お母さん自身も無理をせず、心身共に健康でいて頂きたいと心から願います。敏感で感受性が強いお子さんは、お母さんの苦しみや痛みも驚くほどの速さで感受してしまうからです。
ともかくも、薬も全く使用せず、卵巣嚢腫は消え手術をしなくて済んだという事実を素直に喜びたいです。

2011年1月21日(金)

坐骨神経痛 []

川西市在住 女性 55歳
初診日:平成22年8月中旬
主訴:坐骨神経痛

(現病歴)
昨年(平成21年)春頃から両足の大腿部後面が痛み出し、仕事に支障が出るようになったためヘルパーの仕事を退職する。しかし、夏に転んで左膝を打撲したことをきっかけに痛みがひどくなり(右>左)坐骨の方まで痛みが広がる。
11月、激痛が起こり救急車で運ばれそのまま2週間の入院となる。
痛み止めの薬や、硬膜外ブロック注射も効果なく、眠れず睡眠薬を毎日服用するようになる。大きな病院に移され、うつ病と診断されるが、処方された薬は服用しなかった。今年5月頃、車を運転する機会が増えてから再び痛みが激しくなり右坐骨~右股関節~右膝が差し込むように痛み、足にテーピング、腰にコルセットを着用。
整形外科でボルタレン、マッサージ、牽引などを施すがよくならず、鍼灸院に来院された。

(増悪因子):動き始めて1~2時間後に激痛。雨が降る前
(緩解因子):立っている等、臀部が何かに触れてない時

(その他の問診事項)
口の渇き有り、温飲好む、口が苦い、寝汗、足が冷える、寝付きが悪い(一時間後)など。

(特記すべき体表観察)
舌診:淡紅色、薄白苔、舌先から舌辺の無苔、やや舌に力が無い。
脈診:脈力有り、脈幅有り。
穴(つぼ)診:左太衝、左臨泣(足)、左照海、巨闕兪の圧痛、左心兪、右肝兪~胃兪、右胞肓冷えなど。
空間診:百会左、臍周左
その他:手足が黄色、痛む場所は冷感。

(診断と治療方針)
証:肝鬱気滞証~膀胱経の経気不利

坐骨神経の痛みは、3年ほど1人で介護していたお父さまが亡くなられた直後に発症している。また、ご主人を亡くされる中、子育てをしながら、立ち仕事に従事されてきた。
これらのことを念頭に、体表を観察すれば、肝気の高ぶりと共に、下半身の弱りが見られる。舌診でも実(ストレス=肝)と虚(弱り=腎)の両面が観察された。

ひとりで生活の全てを切り盛りされる等、緊張の連続の中では何とか持ちこたえていた身体の不調が、ほっとした時に一気に吹き出したものと思われる。
弱りが腰に現れたのは、長年の立ち仕事に加え、更年期辺りの年齢でもあり腎や膀胱などが弱っていた事が考えられる。
痛みの場所が足太陽膀胱経上(大腿部後面)、足陽明胃経絡上(臀部)でもあり、更年期など腎の弱りと重なったことも要因となった。

治療は、腎・膀胱を直接アプローチせず、発病した弱りの中心は脾胃と考え、脾胃をまず立て、肝にアプローチし膀胱の経絡の気の流れをよくする治療とする。

1診目~4診目:脾兪穴
5診目~7診目:百会穴
8診目~10診目:天枢穴
11診目~12診目:滑肉門穴
13診目~15診目:心兪穴
16診目~18診目:天枢穴
19診目~21診目:照海穴
22診目~:太衝穴

(治療結果)
坐骨神経痛の痛みは、治療後数回でやや軽くなる。16診目からは気にならない日も出てきた。現在、冷えた日以外はほぼ痛みが緩和され、よく眠れるようになる。薬の服用は一切無し。

(考察)
ペインクリニックでの痛み止めの注射もボルタレン薬も効果が無かった痛み疾患。これらは、鍼灸の得意とするところです。なぜなら、東洋医学では、痛みの原因を「心と身体の両面」から探っていくからです。
生活でどれ程のご苦労を抱え、どのような生活習慣(仕事も含め)なのか、勿論その一端しか察することは出来ませんが、その一端を知る事がいかに大切なことかをこの症例は教えてくれています。痛みの部分のみを検査し、そこにのみ注射や湿布をしても、根本を知らなければ本当には完治することは出来ません。たとえ精神的なアドバイスは無くても、鍼灸は逆に身体のバランスの崩れを整えていけば精神も安定するのです。

また、このような運動器疾患の治療の時に注意をしなければならないことは、虚と実を見分けることは勿論のこと、病の方向性を見極めることです。
この場合、仕事などで元々腰に負担をかけていた所、腰~臀部~ふくらはぎのように、上から下に病が動きます。その場合、下に取穴(ツボを選ぶ)すれば、病を引っ張り悪化させる可能性があります。腎の虚を考えると、下にツボを取りたかったのですが、これらの事を考え痛みが落ち着いてから照海など下にツボを取りました。
このことは、北辰会代表、藤本蓮風先生の著書「鍼灸治療 上下左右前後の法則(P 173)」にも述べられています。このような疾患はあまりにも多いです。

是非、1本鍼の素晴らしさを実感して頂きたい思いでいっぱいです。

2011年1月18日(火)

偏頭痛と腹痛、胃痛 []

神戸市在住 女性 37歳
主訴:偏頭痛と腹痛、胃痛
初診日:平成22年11月上旬

(現病歴)
子どもの頃から風邪を引き易く、よく中耳炎になっていた。
20歳の頃、ダイエットで12~13キロ体重減少するが、その反動で今度はお菓子しか食べないダイエットをする。
1年間生理が来なくなり、貧血もひどく、一度倒れたためダイエットを中止。現在も立ちくらみは続いている。
また、10年ほど前からストレス性の腹痛がよく起こるようになる。
更に、1年前、転職してから仕事のストレスが増大し、右側の後頭部痛が起こり、痛み(ズキズキ)で眠れなくなった。その後、偏頭痛(右)が、特に秋~冬にかけて頻繁に起こるようになり、痛くなる前は、肩の凝りがひどく目がチカチカする。同時に腹痛もひどくなり胃痛を伴い排便(下痢)をしても痛みはおさまらないため来院される。

(その他の症状)
・1年程前から高音の耳鳴り(左)、寝つきが悪く熟睡感がない、口内炎が出来易い、夏でも汗が出にくい、朝疲れ易い、吐き気、胸やけがする、目が疲れる。

(その他の問診事項)
・飲食:油物が多い、間食でクッキーなど甘い物が多い。
・口渇き有り、温飲を一気に飲む。
・排便尿:残便感あり(1日5~6回)、軟便。尿回数10回。
・生理状況:痛経有り(1日目~2日目)、生理前イライラと食欲増加。
・性格:ストレスをため易い。人に話した後から後悔することも有り。
・運動1時間ですっきりする。

(特記すべき体表観察)
・舌診:暗紅、舌先赤(気が上昇している状態)、白膩苔・ハン大舌(水湿のめぐりが悪く舌が腫れてる)(下記写真)・ 原穴診:左太衝、右合谷、右内関
・背候診:上焦(上部)熱感、神道~脊中まで圧痛(特に接脊)
・脈診:滑弦脈、有力
・腹診:左脾募、肝の相火、胃土の邪

(診断と治療方針)
肝脾不和証:

ストレス過度により肝気が高ぶり過ぎたため、頭痛、耳鳴りなどが起こり、それが元来弱かった脾胃に影響し、腹痛、下痢などの症状もひどくなったと考えた。
油物等の食べ物もさることながら、ストレスの解消が苦手なことや、性格的に思い悩んだり、気にし易い人は、肝から脾胃に影響が及び易い。特に、秋に症状が悪化する事は、夏の暑さによって胃腸を弱らせ、更に肝気が高ぶる結果になったのではないかと思われる。

東洋医学では、胃と肝の関係を「木剋土」(もっこくど)という。この関係は、五行では、木(もく)は肝、土(ど)は脾(胃)にあたり、肝気の疏泄作用(気を全身にめぐらせる作用)脾気(胃)の運化作用(水分、栄養分を全身に運搬する作用)は、互いに協力して、いわゆる消化吸収が正常に行なわれる。肝と脾胃の関係がうまくいかないと、「木乗土」(もくじょうど)といって、食欲減退や下痢、腹痛など、ストレスから主に消化器系の様々な病状が生じやすくなる。
舌の腫れ(痛み無し)や苔の多さ(脾胃)と舌先から舌辺にかけての赤み(肝)にも、脾胃と肝のアンバランスが証明される。(下記写真)

(治療配穴と治療効果)
約5日に1回の治療
1診目~3診目:心兪穴
4診目~5診目:肝兪穴
6診目~8診目:天枢穴と中脘の灸
9診目~:百会穴

初診後はよく眠れて翌日調子が良かった。5診目までに数回軽い頭痛が起こったがすぐにおさまる。食べると下痢になることから天枢と中脘の灸に変更する。
かなり顏色がよくなり頭痛はストレスがかかってもほぼ消失する。百会にツボを変更したのは、気逆咳(一度出ると止まらなくなる咳=肝の高ぶり)のため。
現在も治療継続中。

(考察)
はじめて来院された時は、顏色は黒ずんだ白っぽい色で、目の下のクマなど心身共に非常に疲れているご様子でした。鍼をして、みるみるうちに顏色が良くなり、元気になっていかれるのがはっきりと分かりました。

若い頃の無理なダイエットなどは、多くの人が経験されているように生理が止まるなどかなりの体調の不調を伴います。東洋医学では、血の生成の中心的役割は、脾胃であると考えます。無理なダイエットの精神的な苦痛は、更に脾胃を弱める事になり血の生成にも影響を及ぼします。
また、ストレス過多で肝気が昂ぶると、血が相対的に減少します。脾胃の弱りと、肝気の昂ぶりによる血の減少が重なり、貧血で倒れるまでになってしまったものと予測ができます。

北辰会代表、藤本蓮風氏は、著書「臓腑経絡学」の中で、「体外にある物を吸収し、いらない物を排出し必要な物は身体を循環させる事を「同化と異化」又は「物質代謝」といい、この中核をなすのが「土」=脾の臓(胃の腑)である」といわれています。

患者さんは、肝気の高ぶりが亢進して、本来弱かった脾の水湿代謝に影響を及ぼしたものと考えました。その改善は、症状と合わせて、舌の腫れぼったさが締まってきた事にも現れています。

食と肝気の昂ぶりは密接ですので、肝が高ぶれば食欲が亢進し更に脾胃のめぐりを停滞させてしまいます。
考え方の転換や発散こそ脾胃を守るためにはとても重要な事なのです。

それにしても、鍼で体調を調えれば、多少のストレスには強くなり、身体にまで影響が及ぶ事は無くなるというのがこの医療の誇れるところだと考えます。


舌の先全体と縁が赤い


舌の裏(左記共初診時)

1 13 14 15 16 17 19