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実千代鍼灸院 Michiyo Acupuncture Clinic

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症例

2010年12月24日(金)

手根管症候群 []

西宮市在住 女性 初診時54歳 デスクワーク
主訴:手根管症候群
初診日:平成22年5月下旬

(現症状)
18年前から両手の指先が痺れるようになり病院にて手根管症候群(最後に症状など記載)と診断される。
特に右手指の痺れはひどく、電話で話したり、自転車のハンドルを握るなど同じ姿勢時に指のしびれ感がひどくなる。
また、心臓より高く手を挙げると手全体がしびれてくる。
長年、仕事でタイプを打ち続けていた(1日約8時間)事が引き金になったと思われる。また、パッチワークを趣味にしていたがそれも現在できなくなる。最近、パソコン上での仕事が多く、指のしびれが益々ひどくなり来院される。

(その他の症状)
・更年期で2年前から生理が無くなる。最近になって軽い運動でも動悸がし、のぼせ(ホットフラッシュ)が起こるようになる。
・右手中指の第一関節が腫れる。(へパーデン結節):2年前母親の闘病中に発症。
・普段から痰が多く、咽喉に何か詰まった感じがする。

(既往歴)
1年前:腰痛

(その他の問診事項)
・冷たい飲み物を好む。飲酒毎日ビール(350CC)。

(特記すべき体表観察所見)
穴診:神道圧痛、肝兪右熱感、左照海虚。
舌診:暗紅、白苔、歯痕(舌に歯形がついている状態)有り。
腹診:心下、左脾募の邪、左大巨虚、両肝の相火実。
脈診:滑脈。

(診断と治療方針)
指先の痺れは、18年も前(35歳ごろ)に発症しています。当初は、タイプやパッチワークなど手を使う事が多かった事と、多忙による気の上昇が重なったため発症したものと推測しました。
北辰会方式での「空間論」においては、「手先は頭であり、人間の身体をひとつの磁石と考えれば南に相当する。」とあります。手指の使いすぎは、上に気を集めすぎます。と共に、多忙により気は更に上昇します。

そこへ、出産を経て、更年期を迎えたことにより、今度は腎などの下焦(した)が弱っていきます。人間の身体は全て上下、左右、前後とバランスを保っていますが、更年期は「下が弱る」事によって「上に気が上がり」更に上下のバランスを崩し易くなるためホットフラッシュ、五十肩など上の症状が出やすくなるのです。この「腎を中心とする下の弱り」が、益々「上にあたる手指の痺れ」を増悪させたものと考えます。

飲酒飲食過多(胃の気がしっかりしている)や脈力有力、舌の紅色などを考え上の百会を瀉(しゃ)すことにより、下の腎を強化する治療方針をとる。百会を瀉すとは、過剰な気の上昇の(偏り)を平らかにするという事。(下記考察の「経穴解説」引用を参考に)

(配穴と経過)
週1回の治療を開始
1診目~7診目まで:百会穴
8診目~13診目まで:肝兪穴
14診目~18診目まで:百会穴
22診目~:脾兪穴

★15診目ごろからどんどん痺れがましになってくる。22診目には全くしびれを感じなくなる(10月時点)。

(考察)
18年間の手指のしびれが週1回、約半年の鍼灸治療のみで完治しました。人間の身体全体のバランスを調整することにより、1本の鍼で効果を出す事も可能なのです。

北辰会代表藤本蓮風先生は「経穴解説」の中で、百会の穴(ツボ)について「陽気が盛んになり過ぎたものを降ろす。あらゆる気の上昇というものがありますね。(略)上実下虚という、上が実して、上焦が実して下焦が冷える。そういった場合に、百会を瀉(しゃ)す事によって気を下す、気を下して戻す。(上下のバランスをとる)」と言われています。

特に、更年期など男女共に50歳前後、腎、膀胱など下が弱る時に、仕事など多忙のため過剰に気が上がる状態を続ければ、「上実下虚」という身体のアンバランスを生じます。そして、耳鳴りやめまい、甲状腺の問題、眼精疲労、頭痛などなど上に症状が出やすくなり、共に尿漏れ、腰痛、膝痛など下の問題、いわゆる老化現象が現れやすくなります。

常にバランスをとっておくことは、単に指先の痺れの問題解決だけでなく、今後大きな病気を未然に防ぎ、老化を遅らせることにもなるのです。

(西洋医学的における手根管症候群の見解)
手首の手のひら側にある靭帯に囲まれた手根管というトンネルの中を、正中神経と9本の指を曲げる筋肉の腱が通っています。このトンネルのなかで神経が慢性的な圧迫を受けてしびれや痛み、運動障害を起こす病気です。

原因は、手の過度の使用、姙娠によるむくみ、骨折や腫瘤によるトンネルの圧迫、アミロイドという物質の沈着などが原因で中年以降の女性に多発します。

症状は、初めは人差し指、中指を中心に親指と薬指側にしびれと痛みが起こり、進行すると母指球筋が痩せてきて細かい作業が困難になります。
手首の手のひら側をたたくと、痛みが指先にひびくティネル徴候がみられ、手首を手のひら側に最大に曲げるとしびれや痛みが増強します。
首の病気による神経の圧迫や糖尿病神経障害、手指の他の腱鞘炎との鑑別が必要です。

治療は、軽度から中程度なら装具を使用したりステロイド薬のトンネル注射を行い、これらが効果の無い時は手術を行います。(ホームページより)

2010年12月7日(火)

唾液過多、喉の閉塞感 []

西宮市在住 初診時24歳 女性 臨床検査技師
主訴:唾液過多、喉の詰まり。
初診日:平成22年9月22日

(現病歴)
8年前から喉に塊があるような違和感を感じ、詰まったようになり耳鼻咽喉科にて検査する。異常は無く漢方薬(半夏厚朴湯)を処方されるが効果なし。また、4年前から、唾液が多く出るようになり意識して飲み込まないと口の中にどんどん溜まるようになる。病院にて喉の検査をするがこれも異常は無く、精神的なものではないかと言われ、抗不安剤を3ヶ月間服用する。症状の変化無くホームページを検索し来院された。

(既往歴)
小学校:アトピー発症。
中学生:便秘、口内炎もよく出来ていた。
高校生:頭痛、酷いときは嘔吐して寝込む。喉の詰まり感。
20歳:唾液が多く出はじめる。

(増悪因子)ストレスがかかった時など緊張時。
(緩解因子)仕事の後ホッとしたとき、1人でいる時、集中しているとき。

(その他の症状)
便秘、両肩こり、手足の冷え性、口唇上下とも荒れ易い。

(特記すべき体表観察)
脈所見:1息4至、力有り、左の関上と尺位に硬くてカサカサした(枯脈)がある。舌所見:紅舌でやや色があせている、白膩苔、湿潤、やや腫脹している。腹診所見:左脾募、肝相火、臍周辺の緊張。ツボ所見:神道の圧痛、太衝(右)虚中実、太谿(右)虚。

(主訴発症時の生活精神状態)
喉の詰まり感(8年前~)は高校生の時で人間関係などにストレスがあった。
唾液過多(4年前~)は臨床検査技師として実習や課題が多く多忙だった。

(現在の生活環境と食生活)
現在は、一日中パソコン作業や新薬開発の研究や実験などで魂をつめている。食事はコロッケ、肉食、油物が多くストレス時にチョコやポテトチップスを食べてしまう。

(診断と治療方針)東洋医学では、口中に唾液が大量に湧き、頻繁に唾を吐く事を「多唾(ただ)」といい、また、喉の詰まったような閉塞感を「梅核気(ばいかくき)」と呼んでいる。
患者さんは脾の臓が弱っているところ唇の荒れ、唇内側の口内炎、便秘、やや貧血など)ストレス過多となって肝気が高ぶり、更に脾を弱らせたために発症したものと考えた。
肝の臓と脾の臓は密接に関係している。
多唾は、脾虚湿生証(脾が弱ったため余分な水が口に溢れ出る)梅核気は、肝鬱気滞証(肝気が停滞している状態)とする。

配穴:1診目~3診目:百会
4診目~9診目:天枢
10診目~13診目:太衝

(治療経過)
1診目で良く眠れて3診目から梅核気がややましになる。7診目ごろには便通が良くなり、現在唾液も梅核気もかなり改善され、ストレスがかかっても発症しなくなってきた。

(考察)
様々なストレスがかかっても、うまく発散出切る人と出来ない人がいます。彼女は、沈思黙考型でどちらかと言うとストレスを内に溜め込み易いため、気の流れが停滞しがちです。
その上、誰もが経験するようにストレスで過食になりそれが脾に影響を与えてしまいます。脾の臓は血液を生成したり、水分をうまく代謝したりする作用があります。治療後、肝の気を巡らすことにより、便通と尿の出が良くなり身体の中の水分が排出され、唾液が溜まらなくなったのです。
彼女の様に、身体を治していけば多少のストレスには負けない身体になり、性格もよい方向に発揮されます。