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実千代鍼灸院 Michiyo Acupuncture Clinic

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症例

2011年9月9日(金)

生理痛 []

尼崎市在住 35歳女性 営業職
主訴:生理痛
初診日:平成23年7月下旬

(現病歴)
5歳で卵巣嚢腫のため卵巣摘出。同時期に橋本病が見つかり、チラージンを現在まで30年間服用している。
12歳で初潮を迎えるが生理痛がきつかった。就職してから生理痛はややましになったが、夕方に足が浮腫むようになり、肩も凝るようになる。
30歳を超えてから何回かぎっくり腰を起こすようにもなる。
昨年、部署が代わりストレスが過多になった頃から、生理初日における生理痛が酷くなり、キリキリした激痛に苦しむ。また生理時に必ず酷い腹痛とともに下痢になる。2ヵ月連続で7日間生理がダラダラ続き痛みが酷かったため、婦人科にいくと子宮筋腫(1センチ)があるのみで他は異常なしと言われる。8月から生理痛軽減のためピル治療を始める予定にしている。
生理前は、過食になったり、気分が落ち込んだりしやすく、生理前から生理の1日目~2日目まで下痢になる。

薬:毎月、ロキソプロフェンを服用。

(その他の問診事項)
・小便に何回も行きたくなる。(量少ない)
・ため息がでる。
・冷え性(腰から下)

(特記すべき体表観察)
舌診:紅色、白二苔、滑(舌の表面の潤い)、歯型少し。舌下静脈怒張。
脈診:1息4至半、滑脈で中にギシギシした脈有、やや不整脈、右尺位弱。
原穴診:左太白、太渓、京骨、丘墟、照海、復溜虚。右神門、太白虚。
腹診:心下、右脾募、左肝之相火邪。
背候診:左肺兪~心兪実、右肺兪~心兪虚中実、右肝兪~胃兪実(こそばくて触診難)

(診断と治療方法)
腎虚証・肝鬱気滞証

小さい頃から卵巣のう腫などができていることから、全体のバランスとして、下半身の弱りが見られる。そこへ、ストレスがかかることによって、生理痛が悪化していることから肝気のめぐりが悪くなることが生理痛に関与しているものと大まかに捉えた。肝気のめぐりを長い期間滞らせていたため、お血(おけつ)という病理産物が形成され生理痛になったものと考えた。下半身の弱り(腎、子宮など)を考慮し、その弱りを補うことと、肝気のめぐりを良くすることを同時に行う治療方針とする。

(配穴)
1診目:照海 2番針で15分置針。
2診目から9診目まで:天枢 20分置針。

(治療効果)
ピルを服用することなく、顕著な効果が得られた。4診目に生理がいつものようにきたが薬を服用しなくても痛みはひどくなかった。また生理後はスッキリし調子良い。更に治療後よく眠れるようになり、顔のブツブツも綺麗になってくる。2回目の生理が9診目にきたが全く痛みはなかった。また、生理時の腹痛下痢も全くおこっていない。

(考察)
あんなに痛かった生理痛がこのように短期間で良くなられ、ご本人も大変驚かれていました。東洋医学では、身体全体のバランスを見るため、その不足部分や過剰部分に対して1本の針で調節をしていきます。(少数鍼は北辰会方式の特徴のひとつです)
その時に、虚(不足)と実(過剰)を見分けることが必要です。
彼女は、腎の弱り(虚)と肝気の過剰(実)の両方がみられたため配穴に工夫をしました。(全くの実で使用するツボは選ばなかった)

藤本蓮風著の「臓腑経絡学」の中に、「肝は、五行でいえば「木」の性質を持っている。「木」というのは、上下にのびのびと伸びていく。このことを「条達作用(じょうたつさよう)」という。これは肝の蔵の持つ、自由に伸びようとする、あるいは外へ発散しようとする性質を表したものである。従ってこれらができないと(例えば精神的圧迫等によって)肝の蔵を傷る事になり、肝気うっ血や肝の疎泄障害を起こし、様々な病症を生じていくのである」と言われている。

鍼灸の力は、このような肝気がうっ血し廻りが悪くなるため、精神的に不安定(イライラしたり、悲しくなる等)な状態に対してもアプローチできます。むしろ得意とする分野です。
いくら頭で精神的にコントロールしようとしても中々難しいのが現実です。よって、体から心、更には魂の領域まで善の方向へ回転させていく、それが鍼灸によって可能になるのです。
心と身体を切り離して考えない医療だからこそ出来るのだと確信します。

2011年1月25日(火)

子どもの卵巣膿腫 []

主訴:子どもの卵巣脳腫
大阪市在住 2歳11ヶ月 女子
初診日:平成23年1月8日

(現病歴)
昨年11月下旬、保育園の内科検診で両乳腺肥大が見つかる。その後、10日間にわたり不正出血が続く。(生理様のさらっとした血で少し下着に付く程度)
出血は一度は止まったが、再び2~3日間また出血しだす。それ以降は起こっていない。
大学病院にて検査をした結果、6センチ大の卵巣脳腫(左側)が見つかり、即入院となり手術を待つ事に。
しかし、手術前に、母親の風邪がうつり38度発熱(2日間で解熱)し、手術は12月22日まで延期となる。手術直前になり、今度は院内でウイルスに感染し、下痢・嘔吐のため手術は今年1月下旬まで再度延期となったため鍼灸院に来られる。

母親がこの娘さんを妊娠中、母親の左卵巣が5センチまで大きくなり、仕事を2週間休む。妊娠中期には卵巣の腫れが治まったため仕事に復帰し、出産2ヶ月前まで仕事を継続する。治療は何もしなかった。

(その他の問診事項)
・1歳から保育園に通う。5歳の姉の2人姉妹。
・食事は野菜も食べるが比較的肉食を好む。甘いものも大好き。
・口の渇き有り。
・赤ちゃんの時はおとなしい子でカンも高くなかった。
・湿疹が背中の上部と膝の裏にできる。

(特記すべき体表観察)
望診:顔面は全体的に白と青。(特に眉間の間)
舌診:暗い紅色、白膩苔、舌腹の舌下静脈怒張大。
脈診:滑脈。
背候診:左心兪~脾兪まで実、右肺兪、腎兪虚、命門の熱感、左膏肓あたりにかさぶた有り、背中の上部に赤い発疹多数。
腹診:左大巨実、右肝の相火実。
その他:手足湿熱。

(診断と治療方針)
肝鬱化火(本人の肝の高さと母親のストレスを感受)の熱邪と湿邪(肉食と甘いもの)が結び、湿熱邪となり下焦(卵巣)に下注し、卵巣膿腫となったと考える。
「熱邪」+「湿邪」=「湿熱邪」

(治療方法)
1診目~5診目:古代銀鍼(北辰会が開発した刺さない接触するだけの鍼)を使用。
百会・十井穴(手の爪の際のツボ)・背候診・命門に接触鍼を1日おきにする。

(治療結果)
1回目の治療の後、発熱(38度)し、次の日に解熱する。2日後、腹部に赤い輪っかのような跡(4,5センチ大)ができる。
2診目の治療で背中の赤味や発疹がほとんど無くなる。
3診目の治療時には腹部の輪っかの跡は消失。

5回の治療後、1月下旬の検査の結果、卵巣嚢腫は消えていたため手術は中止となる。
本人の舌の赤みと苔が薄くなり、青白い顔に赤みがさす。→これは、湿熱邪が減少したことを示す。

(考察)
たった5回の治療で卵巣嚢腫が本当に消失したのかどうか考えてみたい。
まず、顔の青白さ(肝気が高い)や接した時の感じから、人一倍、神経質で肝のきついお子さんではないかとの印象を受けました。
入院経験のあるお子さんは、特に何をされるかに敏感のため、ゆっくりと体表観察が出来ませんでしたが、鍼が痛くないことが分かると自ら手や背中を出してくれるようになりました。

体表観察で注目したことは、身体の中の熱の度合いです。舌の赤さ、背中の熱感、特に背中上部と命門(腰の中央のツボ)の熱感はきつく、この熱邪が卵巣で湿邪と結ばれ塊(膿腫)となったのではと予測してみました。
食事からも、油物、甘いものが多く体質的にも湿熱邪が発生し易い状態にあったと思われます。
1回目の治療後に、発熱しその後、腹部に赤い輪っか(4センチ大)が現れたことは身体の中に潜んでいた熱邪が浮いてきた可能性があると思われます。
実際、数回の治療後にはその赤い輪っかも背中上部の赤みも消失していました。

また、特記すべき事は、お母さんが妊娠中に同じく左の卵巣が腫れていたことです。全く不思議な偶然のように思えますが、子供とお母さんの関係は、こちらが考える以上に深く密接につながっていると思えば、納得ができます。
非常に勘の鋭いお子さんであればある程考えられることです。私の考えでは、忙しいお母さんの心(魂)を深く心配し、その心をそのまま感受したため、全く同じ左側に同じ病を発生させたのかもしれないと思いました。
このように敏感な反応を示すお子さんですから、今後は、肝気、肺気ともに過多になり過ぎないように鍼灸治療を継続していくことと、お母さん自身も無理をせず、心身共に健康でいて頂きたいと心から願います。敏感で感受性が強いお子さんは、お母さんの苦しみや痛みも驚くほどの速さで感受してしまうからです。
ともかくも、薬も全く使用せず、卵巣嚢腫は消え手術をしなくて済んだという事実を素直に喜びたいです。

2010年12月28日(火)

肝機能障害後の心疾患を伴う更年期障害 []

西宮市在住 初診時54歳 女性 音楽家
主訴:肝機能障害後の心疾患を伴う更年期障害
初診日:平成22年3月初旬

(現病歴)
今年1月末、突然の発熱(38℃)と共に胃がムカムカする症状を伴い病院にて検査を受ける。肝機能数値が非常に高く、即8日間の入院となる。入院してから入眠剤を使用して何とか4~5時間の睡眠がとれるが、薬が無いと途中で覚醒するようになる。
現在、両方の肩甲骨が痛く、胸が絞られるように苦しく重くなる。少し動いただけで息切れがするため仕事が出来ず鍼灸治療を開始する。

(更年期の症状)
2年前から生理がストップする。(ホットフラッシュ無し)
昨年5月から体調に変化があり、気分がすぐれず身体が重くなったため、9月からホルモンで生理を起こす。元気になったが今年1月入院してから一切の薬を中止した。
退院後、突然上半身が逆上せて汗をかくようになった。

(既往歴)
高校2年から:ぎっくり腰など腰痛多数回。
49歳ごろ:副鼻腔炎。
32歳:声帯ポリープ手術。
体重減少(1年で14キロ減):中性脂肪が高かったため食事制限と、便通をよくする薬を使用してから。
今年8月:胃炎(仕事のストレス)

(家族の病気)
実父:心筋梗塞で他界。(63歳)

(特記すべき体表観察)
舌診:淡暗紫、色あせ、白苔
脈診:弱のため触診が困難。
原穴診:陽池虚(右>左)太白左虚、太衝・衝陽右虚中実。
背候診:右肝兪実(酷い硬結)、左心兪実、右心兪虚。
腹診:全体に虚軟特に下焦(臍の下)の著しい虚、右肝相火
左脾募冷感強。

(診断と治療方針)
:(標)心気陽虚証。(本)肝鬱気滞証。
心身ともに多忙な生活を長く続け、肝気を常に昂ぶらせていたところ、昨年5月、身体が重く調子が悪くなると共に、中性脂肪が高かったため急激な食事制限をした。
更に更年期によるホルモン療法で無理に生理を来させるなどする。
これらにより、肝気実(過剰なストレス)から、心気虚~心陽虚(虚とは弱りの意味)に転化し、更年期時期に心疾患を伴い体力のみでなく精神的にもやる気が無くなったものと思われる。
この「心の臓」の重症度合いは、殆ど赤みが無く、淡い紫色るで潤っているなどの舌診に明らかである。且、脈が殆ど触れず、更年期障害による逆上せ時の汗が冷たくダラダラとかく。これは東洋医学では、心陽(心臓の陽気)が非常に弱っている事を示し重篤な状態にあることを示す。

東洋医学での負荷試験(北辰会による)においても、少し動くと動悸がし、入浴数分で疲労感が増すなど、虚(弱り)が大きい(心の気虚)と考える。
心臓の陽気を高めるために陽池に多壮灸を施し、胸苦しい症状と共に舌診、脈診、浅黒い顏色が赤みを持つことを急ぎ、それらを心の陽気回復への効果判定とする。

(選穴)
週3回の治療を施す。
1診目~:陽池左右の灸(多壮灸)
右熱さ弱い。+肝兪。
5診目~:陽池左右の灸、時々気候が寒いときに
+関元灸
、公孫または、心兪に15分置鍼。
29診目~:陽池左右の灸、照海。
35診目~:灸を中止、天枢に20分置鍼。

(経過)
5診目ごろから少しずつ元気が出て起きてられるようになる。
12診目ごろからホットフラッシュの回数が減少。
17診目から数時間の仕事を開始できるようになる。
38診目ごろから脈がはっきり取れるようになり、歩行時の息切れが無くなり、丸一日元気な日が出てくる。
舌診:淡紫色から淡紅色~暗紅色、顏色に赤みが出るなど回復所見が見られた。

(考察)
重症な状態でしたが、薬を服用することもなく鍼灸治療のみで現在毎日元気に働けるまでに回復されました。
お父様を心臓疾患で亡くされており、途中何度も弱気になった事も。また少し元気になると無理をし、心臓の圧迫感で苦しくなる症状の繰り返しでした。

北辰会代表藤本蓮風先生は、著書「経穴解説」の中で、「陽池という穴処は、西洋医学でいう強心剤のような働きをします。したがって、おしっこが出にくい時、脾腎の陽気が弱ったり、あるいは湿困脾土みたいな形で、水邪の停滞するものに効果があります。」と言われています。
実際、陽池に灸をすると尿の出が良くなり、心気・心陽が回復してきたことはその顏診、脈診、舌診、そして腹診にも明らかに現れました。(下記写真:しっかり力強く出せるようになる。)

現在も週1回、治療に来られていますが、今まで何度も繰り返していた腰痛も起こらなくなりました。このように、肝気の昂りが高じると、「心(しん)の臓」に影響が及びます。同書の中で「心(しん)を調整すれば、五臓が安定する」と言われている通りです。更年期頃は特に、よく散歩しリラックス時間を持つように養生を心がける事が必要です。


12月10日舌背

2010年12月22日(水)

更年期障害 []

明石市在住 初診時49歳 女性 主婦
主訴:更年期障害
初診日:平成22年4月28日

(現在の症状)
今年1月、2月と生理はあるものの少量で終わり、3月には完全にストップする。その後、冷えのぼせ(ホットフラッシュ)、寝汗、動悸、不安感に襲われるようになった。
特に仕事から帰った夜に発症。4月の初め、疲れているのに眠れず、眠りに入っても1時間毎に起きるようになる。
益々不安感が増すようになった頃、自覚症状も無く突然、血圧が上昇(180/110)したため、来院される。

(既往歴)
・幼少期~20歳まで:喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性 皮膚炎、アレルギー性結膜炎、時々中耳炎。
・26歳時:喘息発作

主訴に対しての
(増悪因子)悪天候時、仕事が休みの日、仕事の日の夜は特に酷くなる。
(緩解因子)散歩など運動後。

(その他の症状)
・腰がだるくて抜けそう。
・常に頭上が凝っている感じ。
・胃がもたれる。
・喉の閉塞感。

(最近の生活環境)
介護施設にて仕事従事。2人の子どもが就職してから帰りがバラバラのため遅くから食事の支度をし、朝早くからの(5時半ごろ)お弁当作りなどで睡眠不足が続いていた。

(体表観察)
舌診:紅舌、舌先紅点多数、色あせ、白膩苔。
下記写真1、白苔が多いが舌の先は 苔が剥げて
紅い点点が多数有り。気が上に上がっている事を 示す。

下記写真2舌の色は舌腹(裏)を 中心に見る。 かなり赤く内熱を示している。

脈診:1息4至半、滑弦脈の中にやや濇脈。有力。
原穴診:左太淵、神門、大陵、腕骨虚。左合谷虚中実。左太白虚。左太衝虚中実。臨泣左実。右照海虚。
背候診:神道圧痛、全体的に右肺兪~胃兪まで虚中実。左心兪虚中実。
腹診:左脾募、左肝相火実、左大巨虚。

(診断と治療方針)
-心腎不交証 -
更年期障害の症状は人によって多少の違いはあるものの、上記の様に、突然起こるホットフラッシュ、動悸、寝汗、不眠に加え、不安感がその特徴である。
東洋医学では、これら一連の症状は「心の臓」と「腎の臓」
のアンバランスを原因とする。
「腎の陰(液)」が不足すると、元来陽気の強い「心陽」が昂ぶり、不眠や不安感が起こる。心の臓の熱を冷ましながら腎陰を守る治療として、後溪穴を選穴した。

1診目~6診目まで:後溪穴(10分~15分置鍼)
7診目:天枢穴(20分置鍼)
8診目~16診目:心兪穴(20分置鍼)

(治療結果)
1診目で眠れるようになる。2診目で精神的な不安感は無くなる。最近(8診目ごろ)、職場で気を張ることがあり背中~腰にかけてのだるさが発症。同じく心神を調節する心兪穴に変更する。
北辰会代表、藤本蓮風先生は、著書「経穴解説」の中で「後溪穴は、一身の熱に関与し、心神を支配する作用も持っている」と言われている。

(考察)
東洋医学での「腎の弱り」は、頻尿、尿漏れなど尿の問題、腰痛、物忘れ、足腰が冷える、白髪、歯や骨がもろくなる等いわゆる老化現象として現れます。
更年期は、老化の入り口であり体調が大きく変化する時です。老眼になるのも50歳前後、これらは、下焦(腎や膀胱)が弱ることにより、上焦(心)や肝が昂ぶり易くなり上部の症状(めまい、五十肩、耳鳴り、ホットフラッシュなど)が起こりやすくなります。この時こそ、散歩などで十分下半身を鍛え、上に上った気を引き下げる(リラックス)必要があります。


1、舌背(上)


2、舌腹(裏)

2010年7月14日(水)

妊娠に伴う浮腫 []

尼崎市在住 26歳 女性 主婦
主訴:浮腫(足>顔)

(病状・環境などの経過)
20代前半に左顔面にヘルペス、膀胱炎など患った他は健康だった。
23歳で初めて妊娠。6週目で子宮外妊娠となり赤ちゃんは駄目になるが、2年後再び妊娠。10週目で切迫流産しかかるも何とか持ちこたえる。つわりは軽かったが、9ヶ月に入った頃から浮腫がひどくなり、足がパンパンに腫れあがる。顔の浮腫みも出たが圧倒的に足のほうがひどかった。
出産前は1日何キロも歩くなど、かなりの運動をするが浮腫の改善は見られず、平成22年7月中旬、予定通り陣痛が始まる。子宮口がなかなか開かず微弱陣痛のため、陣痛促進剤を使用し、吸引分娩にて3日後やっと無事に出産を終えた。出産時出血が多く、動悸、ふわふわしためまいなどの貧血症状(検査の結果も貧血)がおこり、鉄剤を服用するもなかなか改善されず、浮腫も出産前よりひどくなっていった。体重も戻らず44キロから51キロまで増加してしまう。
このような状況の中、鍼灸院に来られているお義母さんから鍼灸治療を勧められ、往診にて、産後1週間目から治療を始める。

(その他の主な症状)肩こり、夜間尿3回、残便感有り軟便

(治療方針)体表観察にて舌の淡白色と白苔、顔面蒼白、足の冷えなどから貧血(血虚)の症状が酷く、背中の上焦(上のほう)の肌理(毛穴)が開き、筋縮穴の圧痛、舌の尖端に赤い点々(紅刺)がある事などを考え合わせ、血虚による脾虚証>肝鬱気滞証とし治療をする。
三里穴のお灸(左右の熱さが調うまで)と心兪穴(左)に鍼を施す。

(治療経過)
1回目の治療で尿の出がかなり良くなり、身体が楽になる。2診目後、足の指の付け根に少しだけ皺が出始める(浮腫やや改善)。4診目で足の浮腫は完全に消失し、貧血症状も改善された。多量の尿排出と共に体重8kg減となり身体も軽くなる。

(考察)
東洋医学でいう「脾の臓の機能」のひとつに「運化を主る」とあります。運化には、水穀の運化(栄養分を全身に巡らせる機能)と水湿の運化(水分代謝をする機能)の2つがあります。
この患者さんは、出産での出血多量により脾の臓の機能を著しく低下させ、水湿の運化に影響を与え浮腫が出現したものと思われます。また、水穀の運化は、胃の臓(胃袋に入った飲食物を消化)と協力し、それを血の源となる栄養素(水穀の精微という)の生成と運化を行っているのです。
利尿剤も使用せずこのように早く浮腫が改善したことは、三里(多気多血の穴)の灸によって血を増やしたことにより、脾の臓が運化作用を取り戻し、早い治癒につながったものと思われます。
三里の灸もはじめは21壮まですえないと左右の熱さが整う(同じになる)ことがなかったが、3回目には5壮で整うなど顕著な効果が見られました。(早く整うことは良好な証拠)
現在母子共に健康な状態にあり初めての鍼灸の効果を実感して頂いています。